40 対岸を見るしかない絶望。

 ツイッターを見ていると、こんなツイートが目に入りました。


 ――女性は、悪く育った男性のリハビリセンターになってはいけません。男性を直したり、変えたり、子供のように手を焼いたり、育てたりするのはあなたの仕事ではありません。あなたはパートナーが欲しいのであって、男性の更生プロジェクトがしたいわけではないでしょう。


 アメリカの女優ジュリア・ロバーツの言葉らしいのだけれど、これを読んで思い出した一節がありました。


 以前にも引用したユリイカの「女子とエロ・小説篇」の中の山内マリコと窪美澄の対談の中でした。

 山内マリコが「結婚したあとのことを想像すると、勝手に男性に絶望してしまうんです」と言います。それに対して、窪美澄が「具体的にどういうところに絶望するの?」と問います。


 ――山内 主に家事分担(笑)。同世代の男の子はいわゆる昭和の近代家族で、専業主婦のお母さんに甲斐甲斐しく世話焼かれて育っているので、お母さんがしてくれた家事サービスを自分もタダで受けられると思ってそうですよね。自分は自分のお父さんと同じような役割は果たせなくなってるのに。多分どんなに協力的な人と結婚しても、女性の方が割を食いますよね。そう考えると、これって大損じゃんって思っちゃう。


 うーん。

 色々考えてみるのですが、ジュリア・ロバーツの文章で気になるのは冒頭が「女性は」となっている部分でした。

 男性に対しては「悪く育った」と言う文章がくっついているのに、女性にはそれがない。

 そこが、うーんとなる部分なのかも知れません。


 ――「良く育った」女性は悪く育った男性のリハビリセンターになってはいけません。


 なら(良く育ったってなんだろ? とはなるけれど)、分からないではない。そうなると、悪く育った女性は悪く育った男性をパートナーにしろって話になってくる訳で、おそらくジュリア・ロバーツの言いたかったこととは離れてしまうのでしょう。

 つまり、女性は女性である、というだけで価値があるとジュリア・ロバーツは思っているような文章になっているんですよね(実際、ジュリア・ロバーツはそういう立場の人なのだと思うんですけれど)。

 その上で悪く育った男性とパートナーになるべきではない、と言う。


 実際、その通りだと思います。

 と頷いた後に、書くべきかは悩みますが、僕はジュリア・ロバーツの言う「悪く育った」の定義が上手く理解できていません。

 悪く~がある以上、「良く育った男性」というのも居て、その男性は女性の手によって直されたり、変えられたり、子供のように手を焼かれたり、育ったりしない存在であるはずです(少々の歪曲はありますが)。


 それは例えば、男性のどういう状態を言うのでしょうか?

 男性(もちろん女性)も、人間である以上、間違えることもあるし、常に立派ではいられないし、パートナーの手を焼く瞬間だってないとは言い切れない。パートナーとなった後、お互いが相手の更生プロジェクトに結果的になり、より良い関係を結ぶことだって十分にあると思うのは僕が幼稚だからなのかな? 


 そんな疑問は浮かぶものの、確かに女性が手を焼きそれを当然とする男性がいるのも分かります。山内マリコの言う割を女性が食っているシーンを見かけることも多々あります(基本的にそういう男性は社会的にはとても優秀で、世間一般には良く育ったと言われる人たちですけれど)。

 僕の視点はあくまで男性的なものによって狭まれています。


 だから、僕が見て女性の方が割を食っていると見えても、実際は違うのかも知れません。少なくとも、僕の周囲にいる山内マリコの言う「自分のお父さんと同じような役割を果せなくなってる」男性に割りを食わされている女性は口を揃えて、「でも彼にも良いところがあるから」と言います。

 彼の良いところは私にしか分からない部分だから、と言うように彼女たちは胸を張ります。


 あくまで僕の周囲に居る数少ない女性たちのは話なので、何の参考になるのか分かりませんし、ジュリア・ロバーツや山内マリコの言いたいことからは離れていってしまっている気がして仕方がありません。

 更に、言えば個人的な体験や周囲の友人の話をして、ジュリア・ロバーツの意見を否定したい訳では決してありません。

 ただ、書いてみて分かったことですが、僕はこの手の議論をする時に男性側でしか語ることができません。僕は僕という男の肉体と、男として周囲に扱われてきた記憶と経験を無視して議論することができない。

 少し、僕はそれに対して絶望しています。

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