21 酒と馬鹿は人を選ぶ。

 ということで、今回は全裸になって酒を飲みまくる作品「ぐらんぶる」について書きたいと思います。

 もうね。考えるな、感じろ作品ですよね。


 ただただひたすら笑って、女の子可愛いなぁ、とか思いながら読めば良いんです。こういう作品の原作をライトノベル作家の「井上堅二」が書いていることにも、僕は嬉しさを感じます。

 もしかすると、どこかでちゃんと書くかも知れませんが、僕は以前「ライトノベル作家」を目指す人たちとよく一緒にいたことがありました。それは丁度、ファミ通文庫の「文学少女」と「バカとテストと召喚獣」が人気な時期でした。


 ついでに言えば、僕はファミ通文庫の「学校の階段」が大好きでした。

 が、僕の周囲に「学校の階段」好きがいなかった為、誰とも話を共有出来なかったんですよね。いや、まぁその辺はまた別の機会に書きたいと思います。

 井上堅二の話です。ファミ通の看板作家となった井上堅二ですが、彼はバカテスが売れていても専業にはならず、兼業作家として活動をしているそうでした。そして、それは「文学少女」の野村美月も同様でした。


 当時の僕の周囲にいたラノベ作家を目指す人たちは、この事実に対し巧妙に目を逸らしていたように思います。言ってしまえば、人気作家になって、アニメ化とかして有名人になりたい、という分かり易い欲望を持った僕たちはデビューさえすれば、小説だけで食べて行ける、と真剣に信じていた、あるいは信じようとしていました。

 けれど、現実として売れる人は一握りで、その一握りの人は兼業作家として働きながら小説を書いている。それも作品が売れても専業作家にはならなかった。

 おそらく、今の井上堅二は専業作家だと思います。アニメ版のプリズムイリヤの脚本をやって、更に「ぐらんぶる」の原作もやっている訳ですから。


 僕が言いたいのは作品が一つ売れただけで専業作家になることはリスキーだということです。

 もちろん、デビューして作品が売れて、すぐに専業になることが悪いと言っている訳ではありません。それで成功している人だっているでしょうから。

 ただ売れて、アニメ化して、お金が入ってきたからと言って上がりじゃない。そこから売れる前では考えなくて良かった、売れ続ける方法を考えなくてはいけなくなる。


 そして、井上堅二はライトノベルという形ではなくとも、僕たちの前に登場してきてくれた。またバカテスのような軽快なキャラの掛け合いが楽しめるのだ、と思うと僕は嬉しくて仕方なかったんです。

 で、実際に読んでみてですが。もうね。

 井上節が漫画という形を取るとここまで面白いのか、と震えるレベルでした。

 読んでいる間中ずっと笑ってますもん。


 話は、大学進学を機におじのダイビングショップで居候することになった主人公の日常を描くものです。メインは大学のダイビングサークルでの活動で、時々良い話を交えつつ、基本は友達と馬鹿をする、と。

 バカテスでは女子風呂を覗く為に男たちが結託する、なんて展開がありましたが、ぐらんぶるは大学生。女子大に侵入しようとしたり、同級生が女の子とセックスをしていると知って、それを邪魔しに行ったりします。


 そう。ちゃんと非童貞がキャラクターの中にいるんですよ。

 となると、ですよ。もしかすると主人公とヒロインも一線を越えてくれんじゃね? という期待をもって、こっちは「ぐらんぶる」を読んでしまうんです。だって、男の子だもん。

 正直に告白しますと、僕がライトノベルにハマれなかった理由はそこにあります。ライトノベルというだけで、セックスがないもののように描かれてしまう。その不自然さに僕は常にもやもやしながら、ライトノベル作品を読むことになりました。


 もちろん、セックスが回避されて描かれていても面白い作品はいっぱいありましたし、そういう作品を好きになることもありました。ただ、回避される理由が未成年が読むものだから、というような健全さを押し出された作品は楽しめなかった覚えがあります。もちろん、僕のような人間の為に書かれた物語ではないのですから、楽しめなくて当然なんですけれど。

 バカテスもそういう健全さがありましたし、そういう作品として僕は大好きでした。秀吉とか超好きでした。

 井上堅二は健全な作品を書いていました。

 いわゆる全年齢もの、というべきか、誰でも親しめる作品です。


 けれど、ぐらんぶるはそうではありません。

 酒の描写はぎりぎりを超えてアウトな部分が多々ありますし、男女の関わりやキャラの掛け合いに乗れない人は少ならずいるとも思います。つまり、井上堅二は賛否両論ある作品を書いています。

 好きな人はとことん好きで、嫌いな人はとことん嫌い。そういう人を選ぶ作品。

 僕はそういう風に人を二つに分けてしまう作品を書く作家が好きです。それが単発で売れる作家と売れ続ける作家の違いにも直結してくると、僕は思っています。

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