⑮ 不倫小説 おすすめ十選。

 まず、不倫をウィキペディアで調べますと、以下のようなことが出てきました。


 不倫(ふりん)は本来は、倫理から外れたこと、人の道から外れたことを意味する。近年では特に、近代的な結婚制度(一夫一妻制)から逸脱した男女関係、すなわち配偶者のある男や女が配偶者以外の異性と恋愛・性交を指して用いられる(配偶者のいない男や女が、配偶者が異性と恋愛・性交を行う場合も含む)。


 らしいので、とりあえず結婚相手以外の恋愛・性交をしている小説を選ぶ方向で行きたいと思います。

 ちなみに、この文章は以前の職場で同僚が「不倫小説のおすすめを教えてください」と言い出したので、選んだものです。

 本好きであることは公言していましたが、まさかそんなお願いをされるとは思いませんでした。お願いしてきた人は僕が、その職場を辞める時の寄書きで「郷倉さんは不倫しないでくださいね」と書いてありました。しません。

 


・江國香織「泣かない子供」 ラルフへ


 ――ねぇラルフ。「不倫」ってもしかするとそういうものかも知れないと思うのです。本人にとってそれは悪いことでも悲しいことでもないのだけれど、理屈のバリアをはずしてふと外側から眺めたら、わけもわからず一ぺんに涙にくれてしまうみたいな場所に、それはやっぱりあるんじゃないかって。


 一発目から長く、そして小説ではなくエッセイなのですが。

 当時、著者である江國香織は不倫をしていて、同じように不倫しているラルフという男の子と仲が良かったようです。

 ラルフとレストランへ食事に行った際、ラルフの不倫相手の家族もそこで食事をしていた。それを見た江國香織がびしょびしょになるくらい泣いた後の一節です。

 自分の不倫相手の家族が同じレストランで食事をしていても決して泣かないけど、他人のそれを見た時には泣いてしまう。江國香織いわく、不倫とはそういうものらしいです。

 

・よしもとばなな「ハゴロモ」


 ――病気になった人のほうがつらいと、誰が決めたのだろう、と私は思った。病気にならず、泣かず、ちゃんとごはんを食べて、散歩もして、友達に会ったりしている人のほうがつらいということもあるかもしれないと、なぜ彼は思わなかったのだろう。


 著者いわく、「弱っている時にしか価値がない」小説です。

 元々、不倫相手の奥さんは心臓が弱く、不倫を気に病んでノイローゼになって心臓までおかしくなったので、別れるしかない、と不倫相手が言ってきた後の一節です。

 確かに男って何で可哀相な、か弱い女の子の味方になりたがるんだろう……。


・吉行淳之介「夕暮れまで」


 ――「降ろしたら、奥さんに電話するわ。お昼の十二時ごろ」

「……電話して、どうするんだ?」

「佐々さんのお宅ですね、伝えてください、って言うの」

「なにを……」

「江守杉子が死にました」


 怖いわっ!

 って、思いましたけど、説明を。

 夕暮れまでは1978年の小説で、当時「夕暮れ族」という言葉が流行ったそうです。意味は、中年男性が金に物言わせて若い女性と不倫することです。

 引用した会話は最後の別れ話です。

 不倫小説で、既婚者の男性が若い(美しい?)女性と不倫する場合、だいたいにおいて男が情けなくなっていく過程が個人的に好きです。

 

・村上春樹「国境の南、太陽の西」


 ――「俺もその年頃にはずいぶん遊んだもんだ。だからお前にも浮気するなとは言わんよ。娘の亭主にこんなことを言うのも変なもんだが、むしろ適当に遊んだ方がいいと思っているくらいなんだ。ときにはその方がすっきりするんだ。適当にそういうのは解消しておいた方が、家庭もうまくいくし、仕事にも集中できる」


 この小説がフランスで紹介された時に、テレビのコメンタリィーの女性が批判しまくったらしいです。

 そりゃあ、奥さんのお父さんが主人公に堂々と浮気しろって言うんだから、まぁね。この作品も不倫し始めると主人公が情けなくなって行きます。

 ちなみに、「村上さんのところ」というファンの質問に村上春樹が答える本があるのですが、そこで「安西水丸さんは『うちの奥さんは素敵なんだよ』と言いながら若い女の子をせっせと口説いておられました。プロです」とありました。

 それがプロらしいです。「国境の南、太陽の西」のお父さんは多分、アマチュアです。


 ここからは、引用なしの説明文のみです。引用場所が見つからなかったのと、本が手元にないのもある為です。


・ラディゲ「肉体の悪魔」

 第一次世界大戦の時に十六歳だったから、不倫しましたって話。年上の女性の旦那が戦争に行ったのを良いことに恋して不倫して、あーだこーだする。

 こちらは人妻に手を出す話なので、主人公は情けなくならず、むしろ逞しくなって行きます。戦争というバックグラウンドがあるせいか、クズって思えませんが、冷静に考えれば主人公もヒロインも共にクズです。


・スコット・フィジュラルド「グレート・ギャツビー」

 童貞が金持ちになって初恋の人(すでに人妻)に告白しようとする話。

 世界的な名作にこんなこと言うのもアレですが、ギャツビーがあまりにも子供じゃね? って思いながら読みました。「千と千尋の神隠し」にカオナシというキャラクターが出てきますが、宮崎駿いわく「金を持った童貞」らしいです。そんな感じがしてしまいます。

 ただ、童貞を純真と受けとれば話は変わってきます。


・白石一文「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」

 癌手術を終えた後の金と地位のある雑誌編集者が上司の奥さんに手を出したり、アイドルにまくら営業されたりする話。

 不倫は割り切っている人間の方が強いです。この作品の主人公は一度癌で死の淵に行ってる為、生きることも割り切っちゃってて、本当にやりたい放題。

 最後には嫉妬に狂った男性に拷問を受けて、男性器に釘まで打たれます。嫉妬に狂った女性も怖いけど、男性も怖い。


・島本理生「あられもない祈り」

 彼氏からDVを受けている女性が既婚者の男性に好意を寄せられる話。

 恋愛小説として評価の高い今作。とりあえず彼氏を選んでも、既婚者の男性選んでも苦労するなぁ、ってなります。彼氏と一緒に自殺しようとしたり、男性の奥さんと電話で喋ったり、と気まずいイベントのオンパレード。

 ちなみに島本理生のおすすめは「B級恋愛グルメのすすめ」っていうエッセイ集です。やたら笑えます。


・窪美澄「ふがいない僕は空を見た」

 あるアニメイベントで人妻に逆ナンされ、コスプレして体を重ね続けている男子高校生の話。

 やたら脇の甘い不倫関係で、毎回人妻の部屋で行為がおこなわれます。その為、部屋中に隠しカメラが設置され、人妻の旦那さんに不倫がバレてしまいます。

 そして、そのカメラで撮影された映像がネットに流され、男子高校生の学校での居場所がなくなる、というのが話の筋です。

 女による女のためのR18文学賞という新人賞のデビュー作の為、性描写が生々しい。

 やっぱり年下の男の子が人妻と不倫すると、何故か成長しますが、今作は不倫した人妻も何だか成長した感じです。


 

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