⑪ 小説としての病。
文芸評論家の加藤典洋が以下のようなことを言っていました。
「小説を書くのもゲームだし、批評を書くのもゲームなんです。そうなると小説と批評、両方に“済み印”みたいなものが付いている」
済み印が付くことが商品として、社会(市場)に出されるのだろう、と僕は思いました。
加藤典洋は済み印のついていない作品(けれど、市場にでている)を語ることに対する躊躇として、さきほどの「ゲーム」の話をしていましたので、僕の解釈はズレているか、間違っています。
が、小説と批評はゲーム、という言葉がとても面白いので、このまま進めさせていただきたいと思います。
まず、単なる印象ですが、ゲームと言われてしまうと「世界に絶対に必要ではないもの」、と僕は思います。同じような思いを島田雅彦も(確か)語っていて、「小説家よりも時計職人の方が世界には必要だ」という意味の文章を読んだことがあります。
世界に小説家がいなくなるよりも、時計職人がいなくなる方が確かに深刻な問題です。
と考えて、ふと思うのですが批評はどうなのでしょう?
小説というものは、なんとなく分かります。
ゲームとして考えれば、それに付随するルールも想像はできます。
けれど、批評と言われると分かると頷きにくい部分があります。
変な話ですが、僕は結構「批評」が好きです。読む前と読んだ後で、世界の見る角度が変わる、と言いますか、自分の中で新しい物差しが作られるような感覚が僕はとても好きです。
ですが、批評が何か、と問われると上手く答えられる自信はありません。ましてや、批評としてのゲームのルールとは何か? と問われれば降参する他ありません。
なので、本棚をひっくり返してみたところ、佐々木敦「ニッポンの思想」の中で以下のような文章を見つけました。
「③が、現在の「思想=批評」シーンの一大ジャンルとしての「東浩紀もの」です。あらかじめ述べてしまうと、著者が「ニッポン思想」の「完成形」だと考えているのがのが、この③です」
なるほど。
つまり、東浩紀の本を読みとくことこそ、批評とは何か? という問いには辿りつけると共に、ゲームとしての批評のルールをなんとなくでも把握できるかも知れません。
東浩紀が出しているゲンロンという雑誌の中で、以下のような文章を見つけました。
「それにしても、批評とはなんだろうか。「現代日本の批評」の主題は、ひとことで言えばその問いである」
この後で東浩紀の個人的な話を交えて批評とは何か? の問いから導き出される文章が続くんです。そこには批評としてのルールがしっかりと書き込まれていました。
それを、短くまとめると「批評としての病」になります。
「言葉と現実の乖離は、ねじれそのものが解消されなければ癒えることがない。そしてそのねじれはいまも変わらずに存在している」
からこそ、批評とはなんだろうか? と問い続けなければならない。それこそが、批評のルール。
本当に素晴らしい文章です。
けれど、そうすると(それがあまりにも分かり易いが為に)、漠然と考えていた小説のゲームとしてのルールが揺らいでしまいます。
東浩紀が示すような明確な小説のルールはないのだろうか?
これさえ読めば、「現代日本の小説」の主題が分かる、と言ったようなもの、です。
うーん。
芥川賞、直木賞を読み解けば、そのルールは読み解けるのでしょうか?
本屋大賞的な売れる本を読み解く方がいいのか?
もしくは、村上春樹が「職業としての小説家」を出したように、作家が書く小説とは? 本を読めば良いのでしょうか?
何か違う気がします。
批評をする人間は、まず東浩紀を知っています。好む、好まざるはあるにしても、東浩紀の本を一度は読んだことがあるはずです。
となると、村上春樹?
現代日本の小説は「村上春樹もの」ですか?
確かに村上春樹の新作小説が発表される度に、多くの雑誌が評論文を発表しています。今回なんて、川上未映子と村上春樹の対談本まで販売していましたし。
文藝という雑誌の2017秋で[特集]176人による現代文学地図2000→2020というのがありました。
そこで何度か村上春樹的な作品、という言葉がでてきたように記憶しています。
え? じゃあ、決定? 村上春樹もの? それこそが「小説としての病」? 村上春樹としての病じゃなくて?
あくまで暫定ということで……。
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