第2話
そしてそのまま待つことにした。
望遠鏡がその効果を発揮している時間は、それほど長くはないからだ。
すると男が望遠居から目を離した。
――えっ?
この望遠鏡を幾度となく使っている私にはわかっていた。
まだ望遠鏡から外の景色は拡大されて見えているはずだということが。
一瞬、私に遠慮して早めに見るのを止めたのかと思ったが、そうでないことがわかるまでにそれほど時間はかからなかった。
男の顔は先ほどまでとはうって変わって青白くなっていた。
そしてその顔のまま崖っぷちまで向かうと素早く柵を乗り越えて、そこから身を投げたのだ。
――!
まれにではあるが、ここから崖に飛び込んで自ら命を絶つ人がいるということは、知っていた。
確か三日ほど前にも若い女が一人死んだはずだ。
しかしその身投げと呼ばれる代物を、直接自分の目で見ることになろうとは、想像もしていなかった。
私はあせって崖っぷちに行こうとした。
しかし何故だか自分の意思とは無関係に、足が勝手に望遠鏡へと進んで行った。
――ええっ?
戸惑う私の想いを無視するかのように、身体は、目は望遠鏡を覗きこんだ。
そこに見えるのは見慣れた拡大された眼前の風景のはずなのだが、そうではなかった。
そこには長い黒髪の精気のない若い女が見えたのだ。
おまけにその女には首しかなく、その下にあるべきはずの身体がなかった。
女は眼を閉じていたが、いきなり眼を開くと私をじっと見た。
そして言った。
「私はここで死んだの」
と。
終
展望台の誘い ツヨシ @kunkunkonkon
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