展望台の誘い
ツヨシ
第1話
郊外の小高い山の中腹あたりに、ちょっとした展望台がある。
私は休日にその展望台へ足を向けることがあった。
その理由は単純にして明快。
そこからの眺めが絶景だからだ。
崖の下に広がる山。その先には市街地が連なり、さらに先には青い海に青い空が見られる。
もちろん晴れた日限定だが、問題はない。
天気の悪い日は展望台に行かなければいいだけの話だ。
今日も私は展望台にやって来た。
今日もとは言っても、いろいろあって二ヶ月ぶりだったのだが。
まず一番先まで進み、全体を心ゆくまでじっくりと眺める。
そしてそれに満足したら、展望台に備え付けてある望遠鏡を覗くのだ。
有料だが、展望台で望遠鏡を使うだけの料金がそんなに高いわけがない。
私は望遠鏡に向かって歩き出した。
すると私が望遠鏡にたどり着くと同時に、反対側からやって来た小太りの中年男が同じようにたどり着いた。
私が躊躇っていると、中年男が私の顔を見ながら手振りで「お先にどうぞ」と合図した。
そう言われたからといって、すぐさま「はい、そうですか」と望遠鏡に取り付くほど、非常識な私ではない。
私は男と同じ手振りをした。
すると男がそのまま同じ手振りで返してきた。
わたしもすぐさまやりかえす。
すると男も真似をする。
そんなことが数度続いた。
――これは何時まで続くんだ?
わたしがそんなことを考えていると、男が私の心を読んだのか、言った。
「そうですか。ありがとう。それでは連慮なく先に見させてもらいますよ」
男は硬貨を投入して、望遠鏡を覗きはじめた。
私は無限ループから逃れることができて、ほっとした。
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