第3話

「どうしますリベィ? このまま襲撃しますか?」


「馬鹿言え、正規の魔術師様が居る中に突っ込むなんぞ英雄自殺願望のある若造しか普通はやらねえよ」


「そうですね、普通の人間じゃ一瞬で頭と身体がサヨナラですね。でも貴方なら出来るんじゃないんですか?」


 首を掻き切る仕草を見せるアヴィ。


「出来る出来ないの問題じゃないさ。こんな人目のある所でやらかしてみろ、巧く行こうが行かまいが、明日からはお尋ね者になっちまう。俺はまだ御天道様の下を堂々と歩きたいんでね」


 アヴィもそのことは理解している。一応の確認って奴だな。いくら裏家業だからって不必要なリスクを負うことはない。逆に言えば、リスクを負ってでも遂行する。それが玄人プロフェッショナルの仕事だよ。

 ……まあ師匠の受け売りなんだが。


「常に十人の護衛、その内二人は魔術師だな」


 再び双眼鏡を覗き込みエドワードを探る。


「げぇっ! あいつ【剛腕】じゃねえか」


 魔術師協会に所属している魔術師はそれぞれの特徴を表したあざなが【叡智の果て】から付けられている。


「確か序列、結構高いんじゃなかったか?」


「【剛腕】は序列四十三位ですね。もう一人の方はおそらく序列五十五位の【業火】かと」


「金持ちは違うね、あいつら雇うだけでどんだけ掛かると思ってんだ」


 魔術師の絶対数は見習いを含めても数千人程度しかいない。魔術の才能を持つ人間が自体が少ないってのもあるが、大体半分ぐらいは一人前になる前にを失敗して死んでいく。

 生き残れた魔術師は、能力によって一位から百位までの序列が定められている。相性って奴もあるが、基本的に序列が上に行くほど高い能力を持っていると考えて良い。

 中でも序列十三位までの十三人は別格の扱いで、一人で師団クラスと渡り合えるガチンコ出来るとまで言われている。

 十三位までは各序列に一人、それ以外の序列は複数いる仕組みだ。

 なので、序列が高くなるほど雇うには金と人脈コネが必要となる訳だ。


「潜入するにも骨が折れそうだな」


 これから起こる面倒臭さを考えると溜息しか出てこない。


「頑張って下さいね」


「……他人事だな」


「流石に魔術師相手では、荒事は出来ませんので。役割分担ですよ」


 にっこり笑顔で返答するアヴィ。皮肉の一つでも言ってやろうかと思ったが、正論で返されては文句も言えない。


「……サポート頼んだぞ」


「はい、喜んで」


 こいつ、絶対分かった上でやってやがるな。この売れ残り行き遅れめ!


「…………何か?」


 アヴィの表情が消える。一瞬、背筋が冷たくなったぞ!? こいつ本気で心の中読めるんじゃないか……?


「何でもないです、はい」


 反論なんてしない。

 言ったろ? 玄人プロフェッショナル不必要なリスク生命の危険を負うべきではないって。

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はぐれ魔術師リベィの受難 葦崎 ハジメ @yoshisaki00

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