才能潰し職人はかならず潰して帰ってこい!

ちびまるフォイ

なにもないのが一番いい?

「お、お、俺たち~~♪」

「ウォウウォウ」


「才能潰すぜ、才能職人♪」

「コングラッチェーー♪」


「よし決まったな」


「先輩、毎回この歌うたわなきゃダメなんですか」


「会社の規定上な」

「恥ずかしいッスよ」


2人の才能潰し職人はターゲットの近くにやってきた。

過去に回収した「人目につきにくい才能」を生かして接近する。


「後輩よ。今回のターゲットは運動神経ある奴だ。

 そいつの才能をつぶすぞ」


「……いつも思うんですけど、つぶさなくてもよくないですか?」


「バカ。中途半端な才能を持たせてみろ。

 いっぱしにその才能で挑戦したあげくに、

 世界の壁の高さを思い知って深く傷つくんだ」


「はぁ……」


「それに、オリンピック級の才能がある人は少数で良い。

 それ以外に才能を持たせちゃうと、その才能のせいで周りが傷つく」


「勝てないな、と思うからですか」

「わかってんじゃねぇか、行くぞ」


2人はターゲットに近づくと、ターゲットの所属する部活動の顧問を変えた。

本気で大会を目指すタイプではなく、仲良くやるのを第一とする顧問。


そして、ターゲットにゲームに漫画などなど。

運動をさしおいてもやりたくなるものを数多く与えた。


「先輩、ターゲットが運動しなくなっていますよ」


「よし、一丁上がりだな。才能回収しとけ」


捨てられた才能は回収して、才能潰し職人の手に渡る。

後輩は才能をわずかに才能を残して仕事を終えた。


(さすがに、全部根こそぎというのもかわいそうだな)


才能を回収したあと、次の現場「小説家の才能」をつぶしに向かった。


「今度は簡単そうだな。軽く炎上させて書く内容、書く内容のたび

 文句ぶつけとけば勝手にやる気なくなって自滅する」


「あ、ほんとですね」


部活の顧問を変えたり、両親の性格を勉強ママにしたりするのは

才能潰し職人でもなかなか力を使う大変な作業ではあるが

ネットの評判を操作するくらいは楽にできてしまう。


あっさり仕事を終えて、今度は先輩がつぶした才能を回収した。


「よし、本社に戻るぞ。……ん? なんだこれ」


「先輩、どうしたんですか」


手持ちの端末から顔をあげた先輩には眉間にしわが入りまくっていた。


「お前……さっき、全部才能を回収しなかったな!!」


「え、ええ!?」


「見ろ!! 中途半端に才能を残したせいでかえって努力するようになった!

 それを見た小さな才能を持っている人が努力をしなくなって

 世界全体の平和が乱されているじゃないか!!」


「あわわ……」


「こうなったのもお前の責任だ。お前が才能つぶしてこい! いいな!」


「そんな! こんなに肥大化した才能、僕一人でできっこないです!」


「俺だってできねぇよ! だが、俺まで回収失敗の泥をかぶることはない! じゃあな!」


先輩は脱兎のごとく逃げ去ってしまった。

とはいえ、もとはと言えば自分が蒔いた才能の種。

この世界の平穏を守るためになんとかつぶさなくては。


「行け! 転生トラック!!」


後輩はどこからかトラックを出現させてターゲットを襲わせた。

物理的に運動ができないようにさせればあきらめもつくはず。


しかし、人間がそんなほいほいトラックに轢かれるわけもなく

突っ込んできてもかわされるし、遠目に近づいているのがばれたら対策される。


「ええい、それなら次はこれだ!!」


今度は恋愛をけしかけることにした。


運動から遠ざけるにはもっと夢中になれるものを与えればいい。

まして、恋愛は万国共通で好き好まれているもの。


……が。


「ぬおおお! この朴念仁の難聴ラノベ主人公がぁぁぁ!!」


運動神経が優れ、これまでの人生も恋愛より運動を優先していた。

それだけに異性を接近させても恋愛の「れ」の字も現れない。


それどころか、かっこいいところを見せようと

ますます運動にのめりこんでしまい、運動神経に磨きがかかる。


「い、いったいどうすれば……」


これ以上ターゲットの周囲の環境を捻じ曲げてしまうと

不自然さが際立ってしまい感づかれる危険もある。


悩んだ末、最後にもっと才能のある人間を同じ部活に在籍させた。


こちらは、一定量以上の才能が有るので回収対象にはならなかった人。


「お願いします、今度こそ上手くいきますように……!」


祈るように成り行きを見ていると、ついにターゲットの才能がつぶれた。


「やった! 作戦大成功だ!! やっとやる気をなくしてくれた!!」


自分より近しい実力の人間はライバルとして切磋琢磨されるが、

圧倒的な才能を見せられてしまうと自分のちっぽけさに心が折られる。


そのうえ、自分より実力のある人間がまるで楽しくなさそうにしていると

「こんな人生は嫌だ」と才能を手放す作戦はうまくはまった。


肥大化した才能を回収し、本社へと持ち帰った。


「ただいま戻りました。お騒がせしてすみません」


「なっ……! お前、あの才能を本当に回収できたのか!?

 あんなの、本社の誰もが諦めるほどの難易度だったのに!」


「ええ、この通りです」


回収された才能を確かめて、ウソじゃないことがわかる。


「すごいな……。正直、押し付けたところはあったが

 まさかこんな結果になるとは思わなかったよ」


「先輩、才能をつぶすためのコツつかめましたよ。

 ようは相手の立場になって考える頭が必要なんです。

 これからはどんな才能だって、誰よりも早く回収しますよ」


「そうか、ちょうど次のターゲットは決まったぞ」


「本当ですか? どんな才能です? どんな奴です?」



「思わぬピンチで才能を開花させた奴だよ。

 まったく、才能はどこで開くかわからないから怖いな。

 いったん開くと、周りに疎まれて平穏が崩されてしまう」



先輩は、性能潰し職人の才能を後輩から回収した。

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