第2話 始まり

「えらい、けったいな奴と一戦交えるんやな。ん?なんて読むんや、この漢字。」

 精緻な顔立ちの青年が不思議そうに手元の書類を眺めている。この男、学がない。ひょっとしたら脳みその大きさは猿より劣るかもしれない。

 青年は戦うことよりも、漢字に興味があるようだ。

「外見はげじげじっぽいな。{いせかいげじげじ}か。げじげじってこんな尻尾やったっけ。おお気持ち悪。」

 結局、青年は納得してしてしまった。書類には名称と外見の記載、カラー写真が丁寧に貼ってある。青年は暫し、写真の貼り方に感動していた。

 会場は広いが人間が缶詰状態で一杯一杯で、長い間、沈黙が続いている。どうも窮屈だ。寄りかかってくる人波を蹴飛ばしながら、青年は一服した。

 薄い白色の霧のような煙が龍のように空を舞った。青年は黙って、時計に目をおとした。時刻は4時30分。そろそろ呼ばれてもおかしくない時間である。

 刹那、耳を聾するような高い音が鳴り響き、機械音のアナウンスが続いた。

 『宇津野信哉さま。お入りください』

 忘れていたが咄嗟に青年は思い出した。宇津野は自分だ。今日、一日は自分は宇津野なのである。なぜなら彼は、他者からの依頼によりこの会場までわざわざ、足をはこんだ。

 依頼者の宇津野とかいう男は報酬よりも名誉が欲しいという。まだまだアマチュアの武道家だが、いつかプロになり、その名を世界に轟かせたいそうだ。

 その準備段階として、この世紀の実験に参加し、見事、ミッションをクリアすればいくらか、宣伝になるだろうという魂胆である。しかし、まだまだ武道家として初心者の宇津野に難解なミッションが突破できる可能性はおそらく、無に等しい。

 なので宇津野はこの青年、嘉瀬に依頼したのである。嘉瀬の運営する裏サイトでは一日に暴力系、警備、要人警護官、犯罪に絡んだ仕事がわんさか舞い込んでくるのだ。これもその仕事のうちのひとつだ。

 「ほな行こか。」

 嘉瀬は本会場へと足をすすめた。

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嘉瀬卿平(vs100用) 黎明 @reimeinet

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