第7話 とにかく、新鮮な死骸が必要なのは分かった……。
「マイペース……?」
「待つんだ!そんなことに疑問を抱くな!君には話すべきことがあると思うんだが!?」
「話すこと、ですか?」
「そうよ、新鮮な死骸ってどの死骸でもいいのかしら?」
そうそう、玲はちゃんとわかってるな。
良かった良かった。
ん?なんでこっち見てるんだ?
なんで疑問じゃなくて悩みの視線を送ってくるんだ?
夕飯を訊く子供じゃなくて、献立に悩むお母さんのようなその表情……。
まさか、俺の料理の仕方を悩んでいるというのか?
それは早急に止めさせなければ!
「ああ、その事ですか。ええとですね──」
「おい玲!さすがに冗談だろ!?」
焦りすぎて、芽衣に割り込んだ上に、急に
「冗談だろ?」って言ってしまった……。
「ええ、もちろん冗談よ。殺し方なんて考えていないわ」
「だよな。流石にそこまでじゃないよな」
なんか察し良いな。
助かるけど。
てか、なんで察しが良いのにチンピラに絡まれる前、俺のM疑惑深まっていったんだよ。
俺をおちょくりたいだけか?
「ただ、どうやって逃げ続けようか悩んでるだけよ」
「結局俺は殺されるのかよ!?しかも逃亡しようと言うのか!?」
「あの、死骸のことなんですけど、良いですか?」
「あっ、ごめん。話すべきことがあるだろって言ったのに割り込んじゃって…」
「あら、そんな酷いことしたのに、そんな謝罪で済むと思ってるの?」
「つまり土下座しろという事だな?」
「え、土下座?」
確かに酷いことしたし、土下座はするけどさ。
なんか、玲が見たがってるように思えて仕方が無いんだよな。
「ふぅ…」
「芽衣さん、透がこれから何故か土下座するらしいわ」
「え、大丈夫ですって。わざわざ土下座な──」
「この度は、『話すべきことかあるだろ』と言い、発言を促した上で、その発言を遮るという、最低な行為を、してしまった事を、深く、反省しております!誠に、申し訳、ございませんでした!」
多分誠意は伝わったはずだ。
今日の午後だけで土下座4回したけど……。
「透さん、顔をあげてください。私、気にしてないですから」
「そ、そうなのか?でも、割り込んでしまったのはホントに申し訳ない」
なんだ、土下座損ということか……?
「あと、玲さんは一言も土下座しなさいって言ってませんでしたよ」
「え、そうなのか?玲。だったら止めてくれてもよかったじゃないか」
「ええそうよ。ただ、土下座するならするで見てみたかったのよ。そのせいで周りの人達に注目されてしまった訳だけど」
確かに周りから視線を感じる。
土下座をした手前、見渡す気にはなれないけど。
「本当だ。これで透さんは、晴れてこの教会の有名人ですね!」
「なんで、あたかも俺が有名人になりたかったみたいに?!」
「でも、この教会に来る人は多くないので、嘘ではないですよ?もうすぐ夕飯時で、人もピークに近いので」
「違う、そうじゃない……。確かに人は入ってきた時よりは多いけどさ」
もう周り見ちゃったけど、老人が多いな。
教会の機能そんな無いって言ってたし、多分、みんなで料理を持ち寄って食べるみたいな、そういう事かな。
てか、もうそんな時間なのか。
「透の夢も叶ったことだし、本題に戻りましょうか」
「そうですね。何の死骸を持ってきて欲しいのかって話ですよね?」
「そうなんだけど、もうすぐ夕飯なのに死骸の話するか迷うな。あと、俺の夢って有名人になる事だったの?」
「あー、そうですね」
「でも、早くこのこと話さないと、また脱線しちゃうわよ?」
「はい、玲さんの言う通りだと思います。また、土下座されても困りますしね」
「なんで、既に俺が土下座キャラになってるんです?」
そして、玲の意見に賛成するということは、さっきの「そうですね」は俺の夢に対する肯定ってことかな……?
全く、これだからマイペースは……。
「え、それは自ら土下座を買って出ていたので」
「あなた達また脱線してるわよ」
発言を無視できない芽衣の優しさのせいで話がズレていってしまうな。
多分このまま話を続けると、芽衣の持ち前のマイペースによる会話の
「ああ、すいませんでした。私が持ってきて欲しいのは魔狼の新鮮な死骸です。神様に捧げるので」
「魔狼……って狼だよな?その新鮮な死骸ってことは狩って来いってことだったりする?」
「狩ってきても良いですけど、西警備隊の方々が、魔狼を森の環境維持の為に狩ってるんですよね。で、その死骸を廃棄するぐらいなら、と比較的安く売ってくれてるので、買ってきて欲しい。ということです」
「要するにおつかいってことか。ん、そんな困った顔してどうしたんだ?」
「え?ああ、ここってこの国の南東に位置してるのよね。で、その魔狼がいる森、そしてそれを売ってる市場は北西なのよ」
「遠くて嫌だなーってことか」
「すみません。あと、玲さんが嫌がったからって訳では無いですが、報酬とは別に移動費と代金は渡します」
「なるほど。ありがたいな」
「ちなみに、自らの手で狩猟してくれば、死骸の代金は私たちのものになるのかしら?」
「玲、正気か?」
「あら、あなた金欠どころか無一文なんじゃないの?」
「確かにそうだけど、命は失いたくないです。流石に」
そして芽衣の前では言わないでくれ。
なんか恥ずかしいから。
「というか冗談に決まってるでしょう?」
「いや玲なら、『透、狩ってきなさい』って言ってきてもおかしくないと思うぞ」
「確かに、透だけに任せるというのはありね」
「えっ……」
「えーとりあえず、自ら狩猟してくるなら代金は返す必要は無いですよ」
「でも、おつかいなら俺達じゃなくても良いんじゃか?」
「いや、それがですね、私はこの教会から出れないので、来る人に頼もうかなと思ったんですよ」
「でも、お年を召した方ばっかでとても頼めないと」
「その通りです」
「まあ、そうなったら若い私たちに頼むわよね」
「だとしたら、今までどうやって死骸を手に入れてたんだ?捧げ物なら定期的に必要だと思うし」
「今までは西警備隊の方が直接送ってきてくれてたんですよね。もちろん代金は払ってますが。でも最近、西の都と東の都のトップが喧嘩?したらしくて」
「ああ、それで西と東の物の行き来ができなくなってるのか」
「大体そうね、行き来できないって言っても、西側が『東になんて送ってあげないよ』って言ってるだけだけど」
「まあ、その程度のことなんで、西と東の行き来や、個人的な輸送は問題ないんですよね」
「だから、知らなくても別に恥ずかしくはないわ、普通に暮らしてたら気にならないもの」
「なるほどな……。まあ、要するに俺たち自信が西特有の物を持ち運ぶのは問題ないからってことか」
「ということで、出発は明日にしましょう。真反対なだけあって移動も時間かかるわ」
「そうだな。じゃあ芽衣、明日行くということで、よろしくお願いします」
「はい、わかりました。あ、透さんお金持ってないんですよね?」
「え、まあ、お恥ずかしながら」
「玲さんのも含めて、夕飯と寝床を用意してあげますよ。報酬の一部前払いということで」
「ホントにいいのか?」
「ホントにいいですよ。報酬の一部からの出費なので」
「ありがたいけど、なんか違う気がするわ……」
「ああ、心配しないでくださいね。できるだけ安く美味しく作るので」
「あ、ありがとう。恩に着るよ」
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