第5話 要するに、アイツが間抜けすぎるだけなんですよね……。

アイツとの距離はさっき逃げてた時と変わらないくらいだから、どうせ曲がってすぐ火の玉撃ってくるだろ。

というか道の長さと火の玉の速さ的にそうしないと追いつかないのか?

まあどっちにしろ普通に走った方が追いつけると思うんだが。



「オラァ!」


「危ねッ!」

「きゃっ!」



当たる可能性は低いと言ってもやっぱり火は怖すぎる。

だがしかしその火を逆に利用させてもらうぜ。


という事でアイツをちょっと待ちまーす。



「え?急に止まってどうしたの?小麦粉の袋も開けてるし」


「まあ、見てろって」



アイツが角にくる少し前に合わせて、小麦粉を空中にぶちまけるッ!



「え?何やってんの?」


「よし、逃げるぞ!」



よし、今かな。

いやあ、1回言ってみたかったんだよね。

まさかこれを言える日が来るとはな。


「エクスッップローージョンッッ!!!」


「ぐあっ!」



「おっ、と、危ねぇ」



やっぱ火の玉怖え。

まあ、アイツのうめき声も聞こえたし、どうやら成功したみたいだな。



「ねえ、後ろで何かが急激に燃える音と呻き声が聞こえたけど一体何したの?というか今のセリフ何?」


「仕方ない、教えてやろう!」


「誇らしげにしてるのなんかムカつくわ。まあ、一応助かったっぽいから感謝はするけど」


「まあ、完全に仕留めたわけじゃないからとりあえずここから早く離れよう」


「確かにそうね」



もし、アイツを完全に仕留めてしまったらどんなことになるか分からないからな。

死刑囚として指名手配されるのはゴメンだぜ。


とりあえず、目くらまし&怪我させて俺たちを追わせる気を無くすことが目的だったけど、上手くいったみたいで良かった。

あのチンピラくらいなら物理面で無能でもなんとかなるもんだな。

アイツも精神面で無能だったから助かっただけだけど。

いやでも、やっぱり無能というのはこれから先、困難に見舞われるとしたらくっそ辛いな。

まあ、困難に見舞われなきゃいけないだけなんだけどさあ……。



「ここまで来れば安心かしら?」


「そうだな。取り敢えず結構、走ってきたから多分きっと恐らく大丈夫だな。それにしてもほんと無事に逃げ切ることが出来て良かった」


「ええそうね。それで、あのチンピラを足止めしたあの爆発みたいなものは一体どうやったの?あなた魔法なんて使えたの?エクスプロージョンとか叫んでたけど」



興味津々だな、もっと逃げ切った感慨にふけってもいいじゃないか。

まあ、褒められたいんで言うんですけどね。

というか、やはりこの世界には魔法というのが存在するのか。



「あれは粉塵爆発って言うやつだな。魔法なんかじゃないれっきとした物理現象だ。あと叫んだのはやってみたかっただけだ。気にしないでおくれ」


『行き過ぎた科学は魔法と区別がつかない』みたいな言葉があったけど、こういうことか?

まあ、粉塵爆発は『行き過ぎた科学』とまでは言えないような現象だけとは思うけど。


「粉塵爆発?よく分からないけど、魔法も使わずあんな派手な炎を出せるもんなのね」



そういえば粉塵爆発ってどれぐらいの人が知ってるのだろうか。

俺はとあるライトノベルで知ったけど。

粉塵爆発が常識の範囲内なのかがわからん。



「細かい粉と火があれば誰でも出せるぜい。今回はあのチンピラが間抜けで、角を曲がるなり火の玉を撃ってきたからそれを利用させてもらった」


「でも、そんな簡単にハマってくれるものなの?」


「まあ、アイツが間抜けだったし。今まで当たってなかったから、粉塵で前が見えなくなってたら余計ムキになって火の玉を撃ってくるだろう?ほら、アイツ間抜けだったし」


「確かに間抜けだったわね。それはともかく、とおる、ありがとう、助かったわ」


「ふ、俺だしな。当然のことだ」


「何偉そうにしてるのよ。確かに透のおかげで逃げることが出来たけど。まあいいわ、小麦粉ってまだ残ってる?」


「え、残ってるけど……」



え?なんで急に残量確認?

まあ、無駄に小麦粉たくさん買ったから一応5分の2くらいは余ってるけど。

私の金だから勝手に使って許さない的な?

助けてあげたんだから小麦粉くらい安いもんだよね?

まあ、確かに俺が話しかけなければ命の危機は感じなかったかもだけどさ。

でも、火の玉がかすってちょっと火傷してもリンゴ磨り潰して塗れば応急処置にはなったしそんな怒ることないよね?

俺怒られるようなことしてないよね?

大丈夫だよね?



「残ってるならいいわ。アップルパイは好き?」


「え、ア、アップルパイ?好きだよ(キリッ」


「何でそんなに驚いてるのよ……。というか好きって言う時カッコつけるのなんなの?」


「いや、べ、別に驚いてなんかないし……」


「ネタかしらっていうくらい動揺するわね。驚いたって事は私が怒るとでも思ったの?」


「はい。思いました。すいません」


「はぁ、私は助けてもらった人を責めるような鬼畜なドSじゃないわよ」


「いや、そこまで思ってないっすよ」



だって小麦粉買ってくれたしな。



「そこまでってことは相変わらず私の事Sだって思ってるのね。どっちかって言うと私がSというよりはあなたが求めてるんじゃないのかしら?」


「えっ、いや、そんなハズは……」


俺が怒られると思ったのはれいがSというか先入観からだけど、俺がそのSの態度を求めた可能性も考えられるのか?


「まあ、そんなことは決して認めないんですけどね」


「どうでもいいわ。じゃあ感謝の印としてアップルパイを作ってあげるから教会に行くわよ」


「教会?小麦粉とリンゴを捧げて祈れば、神がアップルパイにしてくれる奇跡でも使うんですか?」


「そんな奇跡ないわよ。ただオーブンを借りるだけよ」


「へぇ、教会にオーブンなんてあるのか。というか玲、アップルパイ作れるんだな。女子力高いな」


「あら、私を舐めてもらっちゃ困るわよ?料理は結構得意な方なんだから」


「おうそうか。なら貧乏揺すりしすぎて教会が崩れるほど超心待ちにしてるよ」


「なら外で待っててもらうわ」


「ものすごい期待に応える自信をもってらっしゃるのですね。流石です」



自分の料理に結構な自信もってんだな。



「着いたわよ」


「おお……!普通だ」



別に教会見て感動なんかしないな。

見た目はドラ〇エの大きめの教会と同じ感じなんだな。

てか、十字架ついてないけど教会感が凄いする。



「お邪魔しまーす」



おお、ステンドグラスからの光が綺麗だな。

ん、一番奥のあれは神様の像なのかな?

というか結構広いな。

教会と言うより市民ホール的な集会所っぽいな。


テーブルと椅子の配置が飲食店みたいだし。



「じゃあ、ちょっと作ってくるわね」


「ういっす。こっちはパンが焼けるのを待つついでにお祈りでもしてくか……」



これから平穏無事な異世界生活を送れますように。っと。


うん、これ絶対フラグだよな。

またやらかした。


でも、料理もできる美少女と生活できるなんて最高だ。

仕方ない、そのバランス調整の為なら、ほんの少しの困難だけなら許してやろう。

ただし、命の危機、テメエはダメだ。



「あ、玲?ちょっと取材したいんだけど、焼き上がるまでいい?」


「え?めんどくさいわ。ああでも、ここがどこかも知らないのよね……はぁ、仕方ないわね」



……めんどくさいとか口に出さないでくれ。

ちょっと傷つくから。

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