三面記事! いかがわしきは数字の母

 フクロウ島にて、非道な企みが実行されつつある。

 口に薔薇を加えたガーデン・ナーシサス、リシャール公子がベッドで半裸だった。キメ顔でウインクを放ち、ゾン子とエヴレナはきゃあきゃあ言いながらはしゃいでいる。だが、彼女たちがベッドに潜り込むことは許可されていなかった。平民なんて家畜と言い放つ貴族のボンボンは、同衾するに相応しい相手を選ぶのだ。


「あらま、サマになっちゃって」


 発案者のゾン子がにたにた笑う。げんなりと半裸で立つ女は、日向日和……ではなかった。メイクやら異能やら謎技術やらで大人びた風に見せているだけの少女は、まさにオリジナルに瓜二つのおこりんぼひよりんだった。超有名人ということもあってか、リシャール公子は汚れ仕事に快諾した。


「ほう、似合うもんだな」

「……うわぁ、マジでやってるよ」


 エシュとフェレイが部屋の隅で並ぶ。何故か二人は両手を上げたままだ。にやけ面で両手を上げるエルは何も言わない。同じく、両手を上げるオリヴィエが近付いてくる。


「まさか、こんな危険なゴシップ記事を作る羽目になるなんてね……」


 両手を上げた四人組は、どことなくシュールである。


「まあ、俺は関わっていないからな」

「うん。僕じゃあ考え付かないクソ……斬新な案だよね。僕には関われないよ」

「はいはーい、私も無関係ー」

「実行犯はあいつら。私の監督不行き届きなんてことは、ないわ」


 能天気な三人組が、リシャール公子とひよりんのいかがわしいツーショットの構図に拘る。素人二人はともかく、アルバレスの演技指導がガチである。流石は元一流のゴシップ記者。拘りが職人の域だ。


――――熱愛! あの『未知数アンノウン』が行きずりの熱帯夜! 隠し子に内緒のもう一人!


 そんな感じのゴシップ記事になりそうだった。筋書きとしては、ゴシップ記事をアッシュワールド中にばら蒔いた後、リシャール公子を4番コロニーに縛り付けて捨てていく。根も葉もないゴシップ記事に報復に来た日向日和に、公子をボコボコにさせ続ければいい。最後のひよりんは10番コロニーで確認されている。エシュが回収するまで、オリジナルを正反対のコロニーに引き付けておく算段だ。


「ふっ、俺はこんなガキには興味ないんだけどな。でも、こんな感じに大きくなったらまたおいで? その時は可愛がってあげよう」


 この後、惨たらしく捨てられることを彼は知らない。


「やいやいちびっ子! もっと物欲しそうな表情をしろ!」

「うわあお姉ちゃんおっとなー!」

「リシャール公子、目線をもうちょっと自然に戻してくれ」


 ベッドの中で半裸の男女が一緒である。手で顔を押さえながら指の隙間から覗き込む光景。神竜は、また一つ大人への階段を登ったのだ。


「ちなみに僕ちん、一時期アイドルのプロデューサーもやってたんだぜ!」

「へー」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885760655/episodes/1177354054885846028

「え? ごめん、今なんて言ったの?」


 グラサンちょび髭の死体少女、ゾン子Pは意味ありげに微笑んだ。聞いて欲しそうだけど、多分、突っ込まない方がいいやつだろう。聡いエヴレナは目の前の情事に集中する。


「よし。はこんなもんでいいだろう。文は俺に任せな。ゴシップには人を湧かせるコツが必要なんだよ」


 多分、今までで一番頼れる風格を醸しているアルバレスに、少女二人が純粋な尊敬を抱いた。曲がりなりにも経験豊かな記者アルバレスは、自身の筆に絶対の自負を抱いていた。なんとしてもオリジナルの日向日和を4番コロニーの公子のもとへ誘き出す。そんなプロ根性。

 戦争を司る屍神オグン。剛力無双の戦士である屍神レグパ。

 そんな特記戦力には劣れども、この悪い意味での影響力こそが屍神アイダの真の恐ろしさなのかもしれなかった。そしてみんなバカになる。


「……ちなみにアルバレス。実際に記事を書く貴方も危険かもしれないんだけど、分かってる?」

「ん? ああ、んなの慣れっこだって。適当に姿を眩ませているよ。千里眼でも持ってない限り見つかりっこないさ!」


 オリヴィエ代表は妙に優しく微笑んだ。







「……でも、『リブート』に出くわしたって話は無視できないよ」

「不意をつかれて対応し損ねた。あれは、恐らく女教皇だ」


 『リブート』の中心人物である女帝を屍兵化したことで、エシュとフェレイは芋づる式に情報を巻き上げていた。メンバーほぼ全ての情報はウルクススフォルムとも共有している。その程度安く感じるような、そんなを彼らは握っていた。これは、決して知られてはいけない最重要機密だった。


「今は『リブート』の数を一人でも多く減らす必要がある。対策が取れるのであれば、先に攻勢に出る」

「了解した。ウルクススフォルムも文句ないね?」

「戦力は貸すけど、戦力になるかは保証しないわ」

「違う違う。もらうのは、


 首を捻るオリヴィエ代表に、エルは何かを思い付いたようにフェレイの頭をポンポン叩く。煩わしそうに手で跳ね退けられながら、エルが言う。


「そうだよねー。あの辺、無心で読み耽っていたもんね」


 本棚の、一エリアを指差す。示された位置にあった本とは――――

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