『学園天獄』
8番コロニー、スクールデイズ。
桜舞い散る通学路である。
「いっけなーい! 遅刻遅刻ぅ!」
四枚切りの食パンを咥えたセーラー服の死体少女が滑るように走る。水飛沫上げる爆走だ。
(あたし、ゾン子! 2〇歳! 恋に恋するラブリィ乙女! でも国語算数理科社会が苦手なのが玉に瑕☆)
と、曲がり角で誰かにぶっかって派手に吹き飛んだ。セーラー服のスカートがめくり上がったのを気にして、ゾン子がスカートをぎゅぅと押さえる。
「いや~んえっちぃ!!」
「うぬ、頭が高いぞ」
巨大な、黒い馬だった。その蹄は象の足程もあり、もしゾン子が道を妨げていれば、一踏みで圧死させてしまうほどだった。あまりの威圧感に、ゾン子はその背に乗る女の姿を見ることが出来ない。小さく吐き捨てられた唾が、髪の毛を濡らす。
「ぺろっ。これは青酸カリ……お前、まさか――――父さんのッ!?」
「ほう。まさかあの一族の生き残りがこんなところにもいようとはな」
黒馬から、女が飛び降りる。その姿は、優雅でありながら力強く、野望を秘めた目には黒い炎が灯る。金髪のツインテールに蝙蝠みたいな目、まるで次元が一つ下がったかのように恐ろしくシンプルでのっぺりとした顔の女。質素な礼服を纏う三頭身の女が大地に降り立つ。
「バァーーーン!!」
言いながら着地。
「君はゾン子だね!」
「そういう君はレバーニ=ミソ!」
「頭が高い」
頭を上げたゾン子が謎の重力で跪く。どこからか謎の従者たちがとことこ歩いてきた。
「どうされます? 処す? 処す?」
「まあ待て。おい、小娘」
荒い息でゾン子が顔を上げる。ちょっと嬉しそうなのは気のせいだ。
「私は四天王寺学園四天王総帥四天王寺学園生徒会長!(超早口) この8番コロニーの頂点に立つ女だ! この私に挑みたければ四天王寺四天王を全員倒すことだなあ!!」
「まさか、四天王寺四天王――!」
「ほう、知ってんのう?」
「知ってんのぉお!!」
これは、『リブート』の象徴でもある女教皇との戦いの
◆
「マリミテ学園からの合コンの誘いが来たんだけど、数合わせに来ない?」
「やかましい! うっおとしいぞこのアマ!」
騒がしい生徒たちを一蹴する学ランの男。豪快に机に脚を乗せて、近づきがたい雰囲気を醸している。
「おいおいエシュ太郎! そりゃ本当か!? たまげたぁ!」
「おめえもうるせえぞ、アルバレフの爺さん」
筋骨隆々の男が帽子をはたく。明らかに学生ではない。
「女教皇の居場所は既に分かっている。すぐにでも行こう」
「ふっ、私のシルバードラゴニカでやっちゃうよ」
「アブレイ! エヴナレフ!」
同じく明らかに学生ではない奴らが隣に立つ。顔の上半分に火傷跡を残す学ランの大男は静かに立ち上がった。そして、教室の入口に立つ影は。
「やはり四天王寺学園か……いつ出発する? わたしも合流する」
「ひより院」
「わたしが『リブート』にクローンとして開発されたのは三か月前! オリジナルが社長戦争でドンパチやっているときにデータを取られていた。女教皇は何故か四天王寺から出たくないらしい」
「「「「………………………………………………………」」」」
◆
「うむ。ここまでやれれば教えることはなにもない。行くがよい」
「師匠……………俺は生徒会長を倒せるでしょうか?」
「暴力はよくない」
修行パート学園から柔道着のゾン子が飛び立った。最近生徒が激減し、風景からも見切れることが多くなっていた廃校寸前の学校だった。しかし、その教育技術は凄まじいもので、三十分に及ぶ修行の末にその姿は見違えていた。
「待ってろよ生徒会長。お前は必ず僕が倒す……………!」
◆
「うーん、どうするべきか……」
「どうしたんだ、アッシュワールド版の俺」
「もう一人の俺!(書籍版)」
鏡の前で悩むリシャール公子。どうやら服装に悩んでいるようだ。
「この服、ちょっと派手過ぎないかな……………?」
「オレからすればまだ地味すぎるくらいだぜ! もっと腕とかにシルバー巻くとかよ」
「そうだな! ハシカに負けないオレの伊達ワルコーデだ!」
意気揚々と走り出すリシャール公子。待ち合わせの駅前に立つ少女に声をかける。
「エル! 世界を背負うほどの覚悟は持って来たか?」
「もう! 遅かったじゃない! 相変わらず意味わからないけど、どこ行く?」
「――――なら、サ店に行くぜ」
そして迎える告白の時。甘酸っぱいロマンスが奏でる春の木漏れ日。四天王寺学園の裏庭に聳え立つ伝説の大樹。「卒業式に伝説の樹の下で告白した二人は永遠に結ばれる」という曰く付きのものだ。
ちなみに今は卒業式でもなんでもない。
「青緑のミトコンドリアがお前を愛すと叫ぶ」
エルがはっと口を塞いだ。
「俺と一緒になれ。金はある。名誉もある。俺についてくれば、お前は一生魅力的な人生を歩めるぜ」
「富。名声。力。この世の全てが私の物に……………」
そこまでは言っていない。
「だが断る」
「な、なんだってぇ……………!?」
「私が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ」
ミストルティンの大槍の石突が公子の脛に突き刺さった。身体をくの字に折り曲げた公子が、妙に彫りが深くなった少女の顔を見る。
「四天王が一人、リシャール・エライユ敗れたり――――マインドクラッシュ!!」
「くっ、俺は実は四天王だったのか!?」
◆
「ありゃりゃ? 学園内バトルロワイヤル編突入、最後に一致団結してカンパニーをぶっ潰そうってストーリーだったのににゃ? なんかよく分からん横槍で私がラスボス化してない?」
生徒会長の椅子の上で届かない足をプラプラ揺らす。くりくり首を傾ける女教皇は、謎に始まっている会議を聞きつけて生徒会室から会議室まで走る。
「リシャールがやられたようだな」
「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」
「平民如きにやられるとは貴族のツラ汚しよ! 」
「いや待てあんな奴いなかっただろ」
「喰らえ、大斬撃!」
「「「「ぐわああああああ!!!!」」」」
「ええぇ……………」
配下の生徒たちが全滅していた。第二世代の中でも指折りの実力者たちを洗脳したはずなのだが、ギャグみたいな展開で瞬殺されていた。
「来たぜ生徒会長もとい女教皇! やいやい、『リブート』の看板娘もとうとうお縄だな!」
「むきぃーー! なによ!! 皮を剥いで三味線にしちゃうんだから!!」
◆
時は少し遡る。
「ギャグキャラ?」
「君のようなやつだよ、ゾン子」
周囲の面々が納得する。ゾン子は一人だけ首を捻るが、取り敢えず分かったふりをして頷いてみた。
「こいつには通常のセオリーが効かない。舞台設定が入り組んでいて、そもそも本人までは辿り着けないんだ」
「では、そうするんだ?」
「乗っかって、内側から攻め崩すしかない。しかもまともな方法だとすぐ取り込まれる」
「……………よく分からん」
じゃーん、とエルが積まれた本を指差す。活字の文字ではなく、絵がたくさん載っている本。そう、漫画である。
「ギャグキャラは死なない。だから――――ギャグみたいに倒すしかないんだ」
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