『リブート』――――女教皇
「よく分からんが食らえー!」
「ぐわああああああ!!!!」
女教皇が派手に吹き飛んだ。殴った時のぬるりとした感触に違和感を覚えるが、ゾン子は軽快なシャドーで誤魔化す。
「やったか!?」
「ふっふっふ、生徒会長を甘く見ないでもらおうか……!」
女教皇が瓦礫をどけながら立ち上がる。やけにでかいハンマーを担いで足をぐるぐるさせながら走ってくる。
「ショータイムだ!」
「今何時!?」「そうね大体ねぇ!!」
隙を作ったゾン子が反撃のボディブローを決める。まともに食らえばあばらの数本は砕けている怪力だ。拳から上がる蒸気に、ゾン子は自信満々に言い放った。
「今度こそやったか!?」
「甘い! まるでシュークリームにさくらんぼが乗っているようだぜぇ!!?」
「ちくしょうなんでさ!!」
まるでダメージが無かったかのように女教皇が再び突っ込んでくる。ゾン子は生徒会室に備え付けられていたバナナの皮をぶん投げた。
「ふぎゃん!?」
女教皇、転ぶ。ゾン子は無防備な生徒会長に無慈悲の
「やったか!?」
「やってない!」
返しのハンマーでゾン子がぶっ飛ばされた。見間違いでなければ「百t」と書かれていた。壁を五枚ぶち破って、辿り着いたのは遊技場。何故学校内にこんなところが。
「てめえ……まさか不死身か?」
「なぁにさ。ただ毎日納豆食べているだけだよ。そうすれば粘り強くなれるんさあ!」
余裕の表情で飛んでくる女教皇の左腕にはカンパニー製の謎の機械が装着されていた。
「着けな!
「――そう、だよな? 乗ってやる!」
ゾン子の左腕にも同じ機械が装着された。互いの機械には、40枚のカードが装着されている。これは彼女らデュエリストの魂。
「先行はもらうよ! デュエル開始の宣言をしろISONO!!」
「死ね」
拳銃の軽い音が三発。ISONOことオリヴィエ代表が女教皇に鉛玉をぶち込んでいた。
「ん……………あれ?」
「いや、だから謎のギャグ空間に飲みこまれないでって。ギャグパートにされたらあいつ無敵なんだから」
ドクドクと血を流す女教皇はぴくぴく痙攣している。何がどうなっているのかいまいちよく分かっていないゾン子は、取り敢えず手近にある赤いスイッチを押した。
「だから待ってってぇぇぇああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――…………」
オリヴィエ代表が謎の落とし穴に吸い込まれて消えた。ゾン子は首を傾げて上を見上げるが、数秒固まって取り敢えず女教皇の方を見る。
「てめえ、生徒会長って嘘か!?」
「私は不死身の吸血鬼だ! 私は人間をやめるぞ! 無敵のリブートパワーだ! 止まれぃ、時よ!!」
がばっと致命傷だったはずの女教皇が起き上がった。その右手にはいつの間にかケチャップが握られている。それを認識した途端、世界が静止した。
「ようやく追い詰めたぞ――――」
そこに現れたのは、学ランのエシュが率いる珍妙なコスプレ集団。何か妙なポーズで静止している奴らと違い、エシュだけは普通に歩いて近付いてくる。
「こいつ、私の止まった時の世界に入門してきただとぉ!!?」
「オラ――――とでも言うと思ったか?」
のっぺりと無表情になった女教皇が、ハンマーを振り抜く。一歩下がって回避したエシュは、その小柄でアンバランスな肉体を蹴りで粉砕した。
「届いたぞ。もうギャグパートは終わりでいいな?」
「僕は死にましぇん」
砕けた肉体がジェル状になって一か所に集まった。驚愕に固まるエシュに、女教皇はねっとりと口角を上げた。
「お前はもう死んでいる」
直後だった。エシュの屈強な肉体が全方向からの殴打で凹み、全身から血を噴き出して破裂した。まだ時間は静止したまま。女教皇はそのままハンマーを持って突進する。
その腕が、空中で止まっていた。
この小さい手は、フェレイだった。時間停止が解ける。女教皇はもう一度声を張り上げようとして、気付く。
(あれ、こいつなんで耳栓してるんだ? ひょっとして、手の内がばれていたり?)
どこから漏れたか。
いや、誰が漏らしたのか。時間停止が解除された。冷ややかな少女の視線を感じた。
「もう、いいでしょ?」
「……あ、あれぇ? これってもしかむぐぅぅぅ」
フェレイの左手にその口が塞がれた。とてもギャグだなんて言っていられない状況。無表情でからから笑う少年は、この上なく不気味で、そして。
この嫌な予感は。
「せえの、爆発オチなんてサイテー!
――――オチってのは君の人生のオチって意味だけどね♪」
圧倒的な業炎が、女教皇の肉体を内側から爆発させた。
◆
「不思議っていうか理不尽よねぇ…………」
「これが『リブート』。やってられないよ」
何故かウルクススフォルムの巨大な丸テーブルに転送された作戦メンバー。全員髪型がアフロで黒い息を吐いている。
「えー、結構楽しかったよー?」
フェレイのアフロをくしゃくしゃにしながらエルが笑う。
「――まぁ、終わったってんなら俺は仕事に戻るぞ」
「お姉ちゃん、ゲームしよ! セブ〇スドラゴン!」
「先に便所だほい」「いっトイレ~」
アルバレス、エヴレナ、ゾン子が席を外す。アフロ頭のまま。
「俺たちももう出る。そちらは任せたぞ」
「万事承知」
頭にひよりんを引っ付けながら、エシュが席を立つ。そもそも女教皇戦から逃げ出したリルヤを除き、残ったのは三人。オリヴィエ代表とフェレイ、そして少年の頭によじ登るエルだけだった。
「貴方は動かなくていいのかしら?」
「君たちを野放しにしておく程、平和ボケしちゃあいないさ。それに、直に日向日和のクローンも戻ってくるんだろう? エシュがえらい興味を示しているからね」
「動向は掌握済みよ」
「逐一僕に報告しろ。僕の判断でエシュを呼び戻すかどうか決定する」
エルは相変わらずアフロ頭を弄くっている。
「あ、下手なこと考えたら大図書館ごと燃やすからね。だからこそ僕が見張っているわけだし」
「人質ならぬ本質というわけね。本を焼くような文化は、許容出来ないわ」
「知ってる。だからやるんじゃないか」
とんでもない暴言だ。オリヴィエは額に若干の青筋を浮かべながら、表面上は冷ややかに流す。
「さあて、盤面が大きく動くかな。ゲームみたいで、大変胸が高鳴るよ」
含み笑いで、フェレイは言った。
オリヴィエもエルも、それをただの嫌みにしか受け取らなかった。
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