【アッシュワールド】【vs100】ゾン子（【異世界社長戦争】【vsカリカチュア】）【vsアルファベット】

激震直下！ アウトロー連合壊滅

　アウトロー連合！

　武装探偵の弾圧に対抗するために集まった抵抗組織！

　しかし！

　武装探偵者は滅びた！

　今度はミザネクサからの弾圧だ！

　アウトロー、俺たちの明日のために！　の、巻き！

◆

「ゼロちゃん……なにか分かる？」

「ピピ、ピピピ、南南西から信号あり」

　迷彩幼女が敬礼しながら少女に振り向く。まだまだ遊び盛りの小さな女の子が、こんなスラム街同然の場所にいるなんて。そんな幼女の遊び相手になってあげている金髪の少女。

　彼女は、人ではない。

　『レアゴブリン』ゴブリンコ。名前の通りゴブリンであり、このアウトローは彼女の親衛隊でもあった。人目を避けるようにボロボロのフードをかぶっていて、黒い厚手のマントに身を包んだ姿。それでも彼女が纏う経験値少し多そうっぽいオーラは隠しきれない。

「……………………」

「…………ゼロちゃん？」

　白の迷彩幼女はいつから紛れ込んでいたのか。少なくとも、この３番コロニーに潜り込んでからだったような気がする。

　そう。彼女たちアウトローは、なぶり殺しにされた仲間たちの復讐に来たのだ。

「てえへんだ！　てえへんだ！　てえへんかけるたかさわるになんだよ、お嬢！」

　それはきっと大変だ。ゴブリンコは後ろを振り返った。

　筋骨隆々の大男。

　表向きのアウトローのボス、名前はリーダーだ。

「リーダー、どしたの？」

「ミザネクサに鞍替えしたあの魔術兵装が飛び出して来やがったんだ！　お嬢、念のために避難した方がいいぜ！」

「うん」

　ゴブリンコはフードを目深に被る。彼女はこの暑苦しい男が嫌いだった。目線がとにかくイヤラシいのだ。

「ピピ、ピーピー」

「ん……ゼロちゃん？」

　そう言えば、名前しか知らない、笑顔すら知らない幼女が、げんなりと項垂れていた。

「邪魔なモブは一網打尽。

　レアゴブリンは焼きゴブリン。

　死体はもう知らん」

　魔術兵装『アーシェラ』。

　流れ弾でリーダーが破裂した。生暖かい血液と、柔らかい肉片が皮膚を叩く。引きつったような悲鳴を慌てて飲み込む。

「――――ぉぉぉぉぉおお」

　何か聞こえる。

　放心状態のゴブリンコが幼女に組み伏せられるが、それよりも惹かれるもの。

「おおおおおおおぉぉぉ――――ッッ！！！！」

　異形のメカメカに追い掛けられる、死相浮き出るあの女は。

「ヤバいヤバいヤバいヤバいどうしてこうなったどうしてこうなったあたしはアウトローじゃねえって無実だあああッ！！？」

　ビームサーベルもミサイルも魔術攻撃も。ありとあらゆる殺戮が青いワンピースの女に殺到する。水浸しの地面を滑るように走る女は、明らかにただ者ではない。

　そして、真っ直ぐこっちに向かってくる。

　殺戮兵器を率いて、だ。　

「ギィィイイニャアアアアアアアア――――！！！！」

　放たれる荷電粒子砲。

　アウトローごとレアゴブリンは蒸発した。

◆

「ふむ、君がアウトローの一員ではないことは確かなようだな……」

　栗色の髪、カイゼル髭を生やした壮年の男性。そんなナイスミドルがこの殺戮兵器を操縦していた。グラント・ヘルツホルム。魔術兵装『アーシェラ』が振り撒く破壊は、どこかオーケストラのように華やかだった。

「くっそー暑ぃ……一緒にあれに乗せてくんねえかな」

　プラスチック屑で出来た砂漠にどうしても足を取られる。これまでシーマンにいたから気にしていなかったが、武器となる水気がとにかく少ない。８本足の怪物がうようよとこちらに近付いてくる。

「君。まさかウルクススフォルムの一員じゃないだろうな？」

「ちげーよ！　オイラは立派なハンターだい！」

「ハンター……？」

　魔術兵装『アーシェラ』は活動を再開する。妙な低周音がゾン子の耳に入り込む。鼓膜付近に水の膜を張って和らげると、ゾン子は巨体の下に潜り込むように走った。

（『リブート』の数を減らそうってときにチマチマ時間くってらんねえな……ここにいる節制とやらに逃げられたらどうすんだっての）

　ゾン子は、標的が既に撃破されていることは知らない。エシュは女帝を屍兵化して、『リブート』の全情報を入手するに至った。しかし、現在進行中の作戦がどのような経緯を辿っているかは、その時点での女帝は把握していなかった。フェレイの読みでは、情報もなしにそう簡単に『リブート』を撃破出来るハンターがいるとは考えにくいということであったが、現にそれなりの数の『リブート』が撃破されていた。

　まるで、そうなるように誰かが仕組んだかのようだ。

「おうらよッ！」

　ウォーターカッター、旋回。鋭い水刃が八足をまとめて叩き斬っていた。自重で落ちてくるボディを、ゾン子は砂に潜って回避する。

（レグ兄が巨大ロボと戦う時は下に潜れって言ったのはこういうことか。さあて、ここからどう潰してやるかね）

　衝撃が周囲から押し寄せる。マジックミサイルの連射による包囲。このまま真下のプラスチックごと吹き飛ばす気だ。その包囲は綿密に迫ってきて、ゾン子の機動力じゃ逃げ切れない。どのくらい死ぬか分からないが、強行突破しか手はなさそうだ。

「なにしとんねん」

「うわッびっくりした！？」

　白迷彩の幼女がそこにいた。いつのまにそこにいたのか分からないが、ゾン子が潜り込む前にはそこにいたらしい。アウトロー連合がこれまでいかに戦術士の破壊から逃れていたのか。まるで巣穴に逃げ込むウサギのように、砂の下に潜り込んで逃げていたのだ。

「ねえさんのせいでにげられんようなってまんねん。どないすん？」

「心中しよう（ｷﾘ」

　砂中の幼女にゾン子のテンションが上がる。爆撃音が徐々に近付いてくる。

「……あほかいな。まあええわ。そろそろうっとおしいんや、あれ。たいがいにしてやるわ」

「…………へ？」

　幼女の口がぱかりと開いた。まるで口避け女のような。唐突なホラーにゾン子がガタガタ震えていると、白迷彩の幼女の口から何かが生えてきた。

　巨大なドリルだ。

　ギュィィィィン、と破滅的な音を振り撒きながら発射される。あんまりな光景にゾン子は口をぽかんと開けていた。そのままドリルは真上の『アーシェラ』をど真ん中から貫通してコロニーの天井に突き刺さった。爆撃が止まる。

「あかん……しまつしょもんや」

　砂から這い出した幼女がぽつりと。ゾン子は呆然とそれに続いた。プラズマの熱で肌が焼けるようだった。実際に、砂に削られて肌は血塗れなのにカサカサだ。ゾン子はうとおしそうに肌を撫でながらなんとなく背後を振り替える。

「あ――――」

　咄嗟に動いていた。背中を見せて無防備な幼女へ、ロボットアームから放たれたマジックバズーカが迫る。その軌道を遮るように飛び出し、抱え込むように直撃する。死体少女が木っ端微塵に吹き飛んだ。

「…………なんだったんだ？　しかし、この距離ならばもう逃がす気はない――――ゼロ」

「……んなあほな」

　グラント・ヘルツホルム。彼は生きていた。コクピットごと貫いていたつもりの幼女は、完全に反応に遅れる。グラントが投げるのは電磁波爆弾。このサイボーグ幼女のような機械属性の動きを封じる、彼にとっては諸刃の刃。背中のロボットアームの稼働が止まる。しかし、幼女もばたりとその肉体を倒した。

「私はずっとお前を狙っていた。アウトローなんてついでさ。かつていた、武装探偵にはカンパニーが必要だった。だから、反旗を翻すアルファベットシリーズの脅威は排除しなければならない。今さら、意味がないことかもしれないが、この決着だけはどうしてもつけたかった」

　魔法銃。魔力の弾丸を発射するグラントお手製の兵器。それでサイボーグ幼女のメインコンピュータを破壊しようと、して、立ち上がる女に気付いた。

「お前――「決着ならこっちで預かるよ」

　ゾン子の右手から伸びた水の蛇が、グラントの喉を喰い千切った。反撃に移る前に、その力が抜けていく。武装探偵最後の牙は、ついにもがれた。

「よお、ゼロちゃん。『リブート』について聞きたいんだが、便利能力また貸してくんない？」

　幼女が、ようやくふらふらと立ち上がる。

「だから。なにしとんねん、いうとるやん」

「は？」

　呑気に手を伸ばしたゾン子が、手錠を嵌められる。途端、その腕に数百キロの重りを乗せたかのように真下に引っ張られた。

「ぐ、ちっくし「あんな。だつごくはんがのこのこでてきとんやないわ」

　腕に注射。力が抜けていく。久しぶりで油断した。カンパニー製の筋弛緩剤だ。薬物で動きを完封されたゾン子が大人しくなる。

「もうかばえへんで。おまえはずううっとおりんなかや」

（ああ、そうだ……忘れてた――――）

　薄れ行く意識の中、ゾン子は考えざるを得ない。それを一番思い知っているのは、他ならない自分だったはずなのに。

（『リブート』とか関係ない――カンパニー自体が、既にヤバいとこだったじゃねえか…………）