vsガーデン・ナーシサス
当面の目標は、ひよりんカルテットの最後の一人を確保すること。そして、その最大の障害と懸念されるのは彼女たちのオリジナル。
『
噂に名高い彼女が本気で突っ込んできた場合、ウルクススフォルム及び屍神の一団がまとめて粉砕されかねない。
「……本当に、やるの?」
「嫌か?」
「やれと言われれば……やるけど」
6番コロニー、ミステリーダンジョン。エシュとひよりんは、黄金の鎧に身を包んだ聖騎士と相対する。
「ガーデン・ナーシサス、だな?」
「随分と不躾じゃあないかい、君たち」
これは、奇策のための最後のピースを埋める戦い。
◆
「私にいい考えがある!」
ゾン子のそんな一言で、この作戦が始まった。そして、厄介なことに神竜が味方についてしまった。耳栓を付けながら読書に耽るフェレイと取りあえず一度頷くエシュは反応が対照的だ。
「それなら俺が力になってやれるな」
さらに、筋肉が便乗した。三人は「いえーい!」とハイタッチを交わす。そういえば、共に行動していたらしい。仲違いをしていたはずが、いつの間に仲直りしていたみたいだ。頭上のエルに耳栓を外されたフェレイは、面倒臭そうに手を振った。
「それで、俺は何をすればいい?」
「相手役が必要だ。おい、ドラ子! 見繕いはどうだ?」
「いいのがいた。金持ち・イケメン・チートの三拍子! 黒い噂もたくさんだ! まさにおあつらえ向きだけどドラ子はやめて」
「そいつ、女生徒の人身取引にも手を出してるわよ」
オリヴィエが気だるそうに言うと、ゾン子とエヴレナがにんまりと笑った。
「ゲスだゲス! でもイケメン!」
「そこのチビと一緒にこいつ攫ってきてよ!」
「承知」「いや、承知じゃなくてさ……」
抗議の声を上げたいひよりんだが、あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎて尻すぼみだ。
「よし、行くぞ」
「よし、じゃなくてさ……」
◆
「俺には3秒で十分だよ。キミを倒すのも女をオトすのもね!」
その一言の直後、黄金に輝く装備一式が爆炎にぶっ飛ばされた。ひよりん、開幕のアンブッシュだった。顔を押さえてうずくまる少女が、エシュの袖を引く。
「うむ。中々の美男子だった。無理もない」
「そうじゃない……ッ」
顔を真っ赤に染める少女に、エシュは力強く頷く。
「どちらにせよ、都合がいい」
「なぁにをごちゃこちゃと!」
『炎竜帝』の業火球に飲まれたはずのナーシサスが平然と立ち上がる。間違いなく直撃していたし、その威力は見た目以上のものであったはずだ。てっきりこの一撃で決着かと思っていたエシュは、今さらのようにボウガンを向ける。ひよりんが日本刀片手に飛び出した。
「来な――――俺の聖女騎士団たち」
手に握る小さな人形投げ放つ。眩い光を放ち、美女7人の姿に収束した。それぞれが剣と魔法を携えてひよりんに突撃する。彼女は、美女軍団に一切の目を向けなかった。
「それでいい。進め」
ボウガンの矢が美女軍団の足に次々と命中していく。着弾とともに矢先から返しが開く凶悪な一撃。激痛に足を止めて倒れる美女たちが鬼の縄にまとめて縛られる。
「ほう、俺から目が離せないみたいだな、レディ。そうだな、ちょっとガキどもに“大人”を教えてやろうか」
ナーシサスが蛇腹剣、太陽の剣を向ける。『鋭化』の異能を重ねがけるひよりんは、あっさりと両断した。
「ん……?」
ちょっとよく分からないことになったので、取り敢えず盾を構えた。ひよりんはお構いなしに日本刀を振るうが、今度はひよりんの装備がバラバラになった。
「ああ、こっちは効くのか」
大きくバックステップを踏むひよりんが、再び業火球を放つ。ブラストバッシュ。跳ね返った業火球がひよりんに迫る。水行の盾と『念力』の異能による重ねがけ。派手に巻き起こる水蒸気爆発が小さな身体に火傷跡を這わす。
「ふーッ、ふーッ!」
荒い息を整えるひよりんが、溢れ出る脳内物質でダメージを回復する。しかし、それを待たずにナーシサスは既に接近していた。直後、公子が見たのは盾を握る手に乗せられたエシュの足だった。
「ぐぅおお!?」
手がへし折られるような圧力を受けて、堪らずナーシサスが盾を手放す。盾は地面に落下する前に、不可思議な軌道でひよりんの元に吸い寄せられていった。鎧だけになったナーシサスを、エシュの太い腕が掴む。投げ飛ばし、関節を固め、完全に身動きを封じた。そんな彼らの前に、黒塗りのハイエースが現れる。
エシュとひよりんは無言で頷き合った。エシュが捕らえたまま、ひよりんが麻袋を被せる。もがもが暴れるナーシサスだが、傭兵の怪力を前に抵抗できるはずもない。謎のハイエースがフルスロットルで走り出す。
「……あのままウルクススフォルムに連行されるの?」
「そうだ。お前も心の準備を整えろ」
げんなり頷くひよりんに、エシュは人形を投げ渡した。手の指ほどの大きさの美女人形が7つ。実は、ガーデン・ナーシサスが召喚していたミザネクサ聖女騎士団精鋭の触媒だった。
ひよりんは雑に投げ放つ。
「やん! なになに?」
「今度のご主人様っ」
「ああ、その目いいよぐへへへへ」
「きゃわわ! なでなでっ!」
「ああん! 踏んで下さぁい!」
「布団が吹っ飛んだ」
「命ある限り、主に仕えます」
「ちくわ大明神」
べたべたくっついてくる半裸の美女たちに、ひよりんは嫌そうな表情を浮かべた。
「まて、最後の一人誰だ」
鋭いエシュの突っ込みを無視し、ひよりんが右手を横に振る。聖女騎士団が元の人形に戻った。手の中の人形は七体。残った金髪ツインテールの女がぽかんと口を開ける。背丈はひよりんよりも低いロリセーラー。その表情はどこかのっぺりしていて不安になってくる。
気まずい沈黙。困惑のエシュが右手を伸ばすと、謎のロリセーラーは足をぐるぐる回転させてどっか行った。
「…………なんだったの?」
「…………あれ、『リブート』だ」
「――――――――――え?」
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