儚過ぎた些細な願い
「こ、これって……」
隆宏に渡されたA4用紙程度の大きさの謎の茶封筒。その中に入っていた紙に目を通した瑠璃は、書かれていた内容に絶句する。
“星城家の地位と名誉に傷を付けられたくなければ、娘を差し出せ”。
その文章の意味がわからない、理解出来ない瑠璃ではない。
本当なら、わかりたくなかった。理解したくもなかった。そもそも、知らないままでいたかった。
だって、それは……。
「――脅迫状……」
紛うことなき、脅迫状そのものだった。
なんで、どうして、そんなもの――脅迫状を持っているのかはわからない。だけど、予想することは出来るし、何なら答えは二つしかない。
一つは、この脅迫状は隆宏が用意したもので、誰かを脅迫しようと画策しているか。
もう一つは……。
「……お父さん、脅迫されてるの……?」
この脅迫状は受け取ったもので、誰かが隆宏を脅迫しているか。
つまり、隆宏が脅迫されているか、だ。
ありえない話だ。信じられないことだ。だけど、どうしても隆宏が脅迫しようとしているだなんて思えない。
もしも、隆宏が脅迫しようと企んでいたのなら、そもそもの話、脅迫状を瑠璃に見せるなんてことはしないだろう。意味も必要もないし、それどころか自ら犯罪を犯しますと宣言するようなものなのだから。
瑠璃が共犯、もしくは隆宏が瑠璃を共犯にしようとしているならいざ知らず。明かしたら通報される危険性だって大いにある。そんな間抜けなことを隆宏がするとは思えない。
だから、脅迫されているとしか思えないのに。脅迫されているだなんて信じられない。
そんな気持ちが表れてだろうか、震える声音で瑠璃は問う。
嘘だと言ってほしくて。そんなことないと否定してほしくて。
だけど、そんな瑠璃の願いは。
「……あぁ、そうだ……」
隆宏の肯定によって叶わぬものとなった。
未だに信じられない。信じられるわけがない。
だけど、隆宏がこくりと頷いた以上……脅されているのは本当のことなのだろう。
だけど、どうして隆宏が瑠璃に脅迫状を見せてくれたのかがわからない。
てっきり、瑠璃が呼び出されたのはお見合いの件について話すためだと思っていたのに。
もしかして、脅迫状と今回のお見合いに何かしらの関連性でもあるのだろうかと、もう一度脅迫状に目を通して、はたと気付いた。気付いてしまった。
脅迫状に書かれた“娘を差し出せ”の文字。
無理強いされるお見合い。
もしかして……。
「お父さんを脅迫してるのって……」
「……葛城さんだ……」
隆宏の口から飛び出したのは、今、一番聞きたくない名前だった。
~
まったく筆が進まず、二日空いてしまいすみませんでしたっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます