非情で無慈悲で残酷で
隆宏の口から飛び出した、今だけは絶対に聞きたくなかった名前――葛城。
信じたくなかったが、隆宏が認めてしまった以上信じるしかない。というか信じようが信じまいが変わりようのない事実だ。
隆宏に脅迫状を渡したのはほかでもない葛城賢吾、そのことに瑠璃は二の句が継げないでいた。正確には、絶句していた。
頭の中はごちゃまぜになっていて、訳がわからない。わかるはずもないしわかるわけがない。
どうして、隆宏は賢吾に脅迫されているのか。
もしかして、脅されるようなことをしてしまったのだろうか。
一体、星城家の地位と名誉に傷が付くとはどういうことなのか。
そもそも、真璃はこのことを知っているのか。
そんな、いくつもの疑問が浮かんでは消えて浮かんでは消えてを繰り返している。
だが、ひとつだけどうしても消えてくれない疑問――聞きたいことが、否、問い質したいことがある。
聞いてしまったら、後に引けなくなる。
ただの考え過ぎで済ますことも出来なくなるし、知らなかった方がよかったと後悔することになるかもしれない。
だけど、聞かずにはいられない。否、聞かなくちゃいけない。
知らないままでいるわけにはいかない。
瑠璃は震える声音でぽつりと零す。
「――お父さんは……私を売ったの……?」
瑠璃が聞きたくて、知りたくて、問い質したかったこと。
それは、隆宏が瑠璃を賢吾に脅迫状に従って差し出した――売ったか否か。
正直、聞くまでもないことなのかもしれない。だって、答えは出ているようなものだから。
それでも、聞くまで信じない。信じたくない。
脅迫状には、何故かわからないけど“娘を差し出せ”という要求が書かれていた。
脅迫されたのが隆宏だというのなら、その要求含め脅迫状の中身は隆宏に向けて書かれたもの。
つまり、要求されている娘というのは文字通り隆宏の娘のこと。
すなわち、瑠璃のことである。
何で、どうして、要求が瑠璃なのかはわからない。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
今、重要なのは、隆宏に脅迫状を渡したのが賢吾で、無理矢理させられるお見合いの相手が賢二――隆宏の息子であるということ。
賢吾は言っていた。瑠璃と賢二が婚約することは確定事項なのだと。
どうして、ただのお見合いで結婚することが確実だと言えるのかが謎だったが、これでようやくわかった。わかってしまった。気付きたくなかったことに気付いてしまった。
隆宏は瑠璃を差し出すことで、星城家の地位と名誉を守ろうとした。否、我が身可愛さに自信の保身に走った。
だから、二人の結婚は確定事項なのだ。それが、交換条件だから。
だけど、
なのに、そうとしか思えなくて。
だからこそ、本当はどうなのか聞きたかった。知りたかった。問い質したかった。
いや、違う。わかりきっているけど、本当は違うと否定してほしかったのだ。
けど、現実はいつだって非情で、無慈悲で。
「……」
悲しいくらいに残酷なのだ。
~あとがき~
ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。
あとがきとは銘打ってますが、今回も謝罪です。
未だに瑠璃と隆宏の会話――回想が長々と続いてます。さっさと回想終われよと思っている方、もうしばしお待ちください……。
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