明かされた真実

 真璃に着付けしてもらったあと、瑠璃は慣れない足取りで隆宏に来るようにと言われた部屋に向かっていた。


 理由は言わずもがな、隆宏に話があると言われたから。


 お見合いの直前に隆宏からの話。十中八九、お見合いについての話だろう。そうでなくとも、それに関係する話であることは間違いない。


 しかし、だとしたら、例え隆宏に話したいことがあったのだとしても、瑠璃から話すことは何もない。


 何も、すべてを諦めて受け入れることにしたからではない。今でも、お見合いをする気などまったくない。


 瑠璃が言うべきことは、言いたいことはすべて言った。


 お見合いをする気はないと。


 結婚だってする気はないと。


 学校を辞める気もないと。


 何よりも、自分が好きなのは夜なのだと。


 しかし、そんな瑠璃の話を隆宏は聞き入れてくれなかった。そもそも、聞こうとすらしてくれなかった。それどころか、瑠璃の気持ちなどお構いなしにとお見合いを強行しようとしている。


 それなのに、隆宏は話がしたいと、話を聞いてくれと自分のことを棚に上げた要求をしてくる。


 そんな自分勝手極まりない隆宏の話など、瑠璃が聞く理由などないに等しいだろう。


 無視してもよかった。私から話したいことはないと断固拒否してもよかった。


 だが、なんとなくではあるけど……とても大事な話なのではないか? と、そう思えてならないのだ。


 ただ話すだけなら真璃がいてもいいはずなのに、わざわざ瑠璃だけを呼び出すくらいだ。まぁ、瑠璃が着替えている最中だったからというのもあるだろうが、それだったら襖越しの会話でもいいはず。


 しかし、隆宏はそうしなかった。わざわざ瑠璃を呼び出した。


 瑠璃の考えすぎなのかもしれない。


 ただ、夜との交際を諦めるよう催促されるだけかもしれない。


 ただ、相手側に失礼のないようにと釘を刺されるだけかもしれない。


 もし、そんなことを言われたら話の途中だろうが何だろうが即刻退室してやると心に決めて、いつの間にか到着していた隆宏が待っているという部屋の中へと足を踏み入れる。


「――来てくれたか、瑠璃……」

「……うん」


 中央に向かい合うように置かれた座椅子だけがある質素な部屋。


 一方の座椅子に座って待っていた隆宏が、瑠璃に気が付き声をかける。


 瑠璃はただただこくりと頷き、開いている座椅子――隆宏の前に座る。


「……それで、話って何のこと……?」


 単刀直入と言わんばかりに、時間ないから早くしてと言わんばかりに、話を切り出す瑠璃。


「…………まず、話をする前にこれを見てほしい……」


 そう言って、隆宏は瑠璃の前にA4用紙と同じくらいの大きさの茶封筒を差し出すように置いた。


 瑠璃はおそるおそる茶封筒を手に取り、中に入っていた紙に目を通した。


「こ、これって……」


 そこに書かれていたのは。


 “星城家の地位と名誉に傷を付けられたくなければ、娘を差し出せ”。


 紛うことなき、脅迫状だった。




~あとがき~

 なんと、今回で記念すべき100話! いぇーい!

 ……すみません、記念すべき100話がこんなのですみません……。

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