おいしいカレーと盟友の笑顔

「……ふぅ、やっと出来たぁ……!」


 夏希とともにカレー作りを始めてから一時間とちょっとばかし。


 他のグループはすでに完成し、お昼ご飯の時間まではもう少しばかしあるため、雑談を交わしつつ時間が過ぎるのを待っている。やっぱり、カレーを作るにはそれなりの時間が掛かるとはいえ、多く時間を摂り過ぎたのではないだろうか。


 インターネットでカレーのレシピを調べれば、カレーを作るのに必要とする時間くらいわかるだろうに……。


 そんなことはさておき。あまり他人と比べるのもどうかとは思うのだが、少し遅れてしまったが、夜と夏希もカレーを無事(?)完成させることが出来た。


 因みに、白米についてだが、旅人の宿の方で準備してくれているようで、自分達の手で炊かなくていいらしい。炊飯器以外でご飯を炊くのはやったことがないし、やっていたらやっていたで失敗するような気しかしないので、旅人の宿のスタッフさんには感謝である。


「……さてと、暇だしやるか」

「うん!」


 そう言って、夜と夏希はスマホを取り出した。


 カレーはそれぞれ作り終わったが、肝心の白米はまだ炊き終わっていない。というのも、炊き立てを提供したいというスタッフさんの粋な計らいで、二十分ほど前に炊き始めたらしい。だから、炊き終わるまでの時間は暇なのだ。


 まぁ、他のグループの人達のように雑談で時間を潰すのもそれはそれでいいのだが、夜と夏希がやることは決まっているようなもの。例え、暇であろうとなかろうと、二人が揃えばやることはただ一つ――SwordS anda MagicMのみ。


 故に、言葉にしなくともわかるのだ。盟友であり、相棒でもある二人にとっては言葉など不要……とは言えないけど、言葉がなくとも通じ合えるのである。


「アリス」

「うん、ナイトも」

「了解」


 その証拠に、たったこれだけの会話で、二人は連携をしっかりと取れている。


 お互いが名前を呼ばれたら、瞬時に相手の行動を理解・推測し、次の行動へ繋げるべく最善の行動を取る。お互いがお互いのためだけに行動を起こす。それが夜と夏希、否、ナイトとアリス――ALICE in Wonder NIGHTなのである。


 そうとは知らない他の人たちからしてみれば、夜と夏希が何をしているのかはわからないため、変人にしか見えないだろうが。


 だが、誰からどう見られようが、夜と夏希の心に傷は付くだろうけど、気にすることではないだろう。まぁ、気にしたら負けだし、何より思い詰めるのが目に見えているからというのが主な理由なのだが……。


 そんなこんなで、時間は過ぎていき、旅人の宿のスタッフさん達がご飯が炊けたことを知らせてくれた。


 混雑するのが目に見えているということで、ご飯はスタッフさんが盛ってくれるようだ。生徒達はそのご飯を受け取りに行くことになっている。


 大行列が五列――クラスごとに並んでいるため五列――出来ている中、夜はとりあえずB組の一番後ろに並ぶことにした。


 慎二の意向で、食事はみんなで「いただきます」と言った後に食べることになっているので――小学生みたいとちらほら聞こえて来る――急いで並ぶ必要もないし、何よりも人がごった返しになっているところに行きたくないのだ。


 因みに、夏希にはカレーを温めてもらっている。流石に冷えてしまったカレーをそのままかけるわけにもいかないし、二人一緒にご飯を受け取りに行くくらいなら片方が残ってカレーを温めた方が効率がいいだろう。


 閑話休題。


 そうして、そう待たずに夜の順番となり、二人分のご飯を受け取って元の場所へと戻った。


 慎二が生徒先生問わず全員が貰ったことを確認し。


「旅人の宿の皆様方、ありがとうございます。さて、それじゃあ号令をやってくれる人……と聞いて挙手してくれる人なんているわけもないし夜君に任せようじゃないか!」

「……いや、だからって俺はおかしくないですか理事長」


 慎二の突然の指名に、思わずツッコむ夜。


 最早何度目かもわからないが、夜がこの場にいるのは引率者としてで、宿泊研修の主役(?)は一年生なのだ。


 だというのに、夜が号令というのはおかしな話だろう。普通は一年生の誰かを指名するものだろうに。


 まぁ、慎二に普通を問うても意味がないなんてことはわかりきっていることなのだが……。


「まぁ、夜君の言うことも一理あるか。だったら、A組の委員長に任せようか」

「え、えっと……では、いただきます!」

「「「「「いただきま~す!」」」」」

「因みにおかわりはたくさんあるそうだ。たくさん食べ給え!」


 A組の委員長が苦笑いを浮かべていたような気がしなくもないが、誰も気にすることはなく。みんなカレーを口の中へ……ではなく、カレーを温め直している。


 一方で、夜と夏希は既にカレーを温め直しているため、一口パクリ。


「おいしい……ナイト、おいしいよ!」

「意外とチョコってカレーに合うんだな。おいしい」


 満面の笑みを浮かべ、次々とカレーを口の中へと運ぶ夏希。楽しそうでよかったと、夜は安堵の息を漏らす。


「……ねぇ、ナイト」

「ん? どうかしたか?」

「……一緒に作ってくれてありがと!」

「……どういたしまして」




「――おにいちゃん……」

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