二次元部
翌日――新学期二日目。
廊下、教室、校庭問わず新学期初の行事(?)である部活動紹介関連で賑わいを見せていた。まぁ、騒々しいとも言えるかもしれない。
二年生と三年生は紹介の準備をするために忙しなく右往左往、東奔西走。
一年生もどんな部活があるのか期待に胸躍らせているご様子。
まぁ、高校生活の楽しみと言えば学校行事、部活動くらいのものだろうし、楽しみで仕方がないのだろう。……偏見かもしれないけど、高校生活の楽しみってそれくらいしかなくない?
今日の時間割は一時限目が
そんなうきうきわくわくなご様子の彼ら彼女らを横目に、夜は途中であかりと別れ――一緒に登校してきた――、一人廊下を歩く。部室へと向かうために。
実を言うと、夜も部活動に所属しているのだ。役職は二年生だというのに副部長である。まぁ、部員が夜を含めて二人だけなのだが。
因みに、先輩が引退したから二人になったという訳ではない。元から二人である。更に言えば、夜が入部していなかったら一人だっただろう。
本来の高校なら、部活動を設立するには五人以上は必要とかそういった規定があるはずである。
しかし、柳ヶ丘高校は例え一人でも部活は設立できるのだ。慎二の教育方針がまぁ、部費はほんの少ししか貰えないので殆ど自己負担になってしまうのだが。
長い廊下を端まで進み、最上階である四階まで上り、更に部室棟の端まで歩く。
倉庫や物置と見紛うような一室。そこが、夜の所属している部活――二次元部の部室である。
横開きのドアを開け、部屋の中へと足を踏み入れた。
そして、目の前にいる人物に夜はジト目を向け。
「何してるんですか、部長……」
「何って、夜クンなら見ただけでわかるでしょ?」
「……またギャルゲーですか?」
「うん、あったりぃ!」
笑いながらもパソコンの画面から目は離さず、個別ルート来れたぁ! と両手を上げて喜んでいる
夜の所属するこの二次元部の設立者――部長である。
高校三年生なのだが、小柄な体系からは時々中学生に間違われることもあるそうで、本人は物凄く気にしている。多分、中学生と間違われるのは身長もそうだけど、他の部分も少なからず関係していると思うのだが……。
「はぁ、今日が何の日か知ってますか?」
「部活動紹介でしょ? ……もしかして夜クン、私をバカにしてる? これでも学年一位なんだけど?」
「なら、それ相応の行動をしてくださいよ……」
確かに、瑠璃は学年一位の学力を持っている。実際に、成績表を見せてもらったのだ。流石に改ざんはしていないだろうから本当のことだろう。
しかし、そのことを棚に上げるならそれ相応の行動をして欲しい。部活動紹介があるのだとわかっているのなら準備をして欲しい。あれ? 俺、何か間違ってる?
「じゃなきゃ、この部屋のもの全部俺が持って帰りますよ?」
「それはダメ! 私だってお金払ったんだよ!?」
瑠璃に何とか準備を手伝わせようと言ったことなのだが、ちゃんと効果はあったらしい。まぁ、俺も嫌だし。
部室にあるソファや本棚、小さめのテレビやこたつ、ゲーム機やソフトはすべて夜と瑠璃がバイトで貯めたバイト代で購入したものだから、瑠璃の言う通り二人で買ったものなのだ。
因みに、今はもうバイトは辞めているが、稼いだバイト代はすべて部室の中にある物に使われている。
「なら手伝ってくださいよ! ぶっちゃけ新入部員とかいらないけど部活動紹介はしなくちゃいけないんですから……」
「ほんとメンドクサイよね……」
「理事長に部活動として認められちゃってるんですから仕方ないじゃないですか……」
正直に本音を言ってしまえば、二人とも本当は部活動紹介なぞクソくらえと思っている。
だって、極力人と関わりたくないと心の底から思っている二人なのだ。新入部員とかこっちから願い下げなのである。部費が貰えるようになるとしても、今のままで十分だし。
「……まぁ、一人確定で入部するとは思うけど」
「夜クン、今何か言った?」
「何も言ってないです。部長、ノートパソコン持ちました?」
「ここにあるよ? はい」
「あ、どもです」
瑠璃からノートパソコンを受け取り、部活動紹介の準備は完了。だって、紹介って言ったってなにも紹介するものないし、何の面白味もないプレゼンテーションをすれば二次元部の部活動紹介は終わるである。他の部に比べて準備はすぐ終わるのだ。
だが、一つだけ気になることが……」
「部長、どうしてこれ俺に渡したんです?」
「どうしてもなにも、夜クンが部活動紹介するからだよ?」
何言ってるの? とさも当然といった顔で言う瑠璃。
「こういうのって普通は部長がやるもんなんじゃないですか?」
「夜クン、普通を壊してこその人生だよ!」
「ただやりたくないだけでしょ」
何のこと? と口笛を吹きながら瑠璃。自分から白状しているようなものなのだが……。
「はぁ、わかりました。ただ、責任は全部部長に持ってもらいますから」
「わかったよ。頑張ってね、夜クン」
「何を頑張ればいいかはわからないですけどね」
そう言って、夜はノートパソコンを手に部室を後にした。
瑠璃は夜を見送ると、本棚の前へと移動。上に飾られている写真立てを手に取る。
夜が二次元部に入ってくれた時、記念に撮った写真である。まだ出会って間もないせいか、二人の間にはぎこちなさが感じられるが、今ではそんなぎこちなさなど微塵もなく、先輩後輩の垣根なしに話せる友達である。
瑠璃はその写真を懐かしむように眺め、微笑む。
「……夜クンといられるのも、今年で最後……」
夜は二年生。だけど、瑠璃は三年生だ。即ち、今年で卒業である。
「……夜クンと同級生だったら、もっと一緒にいられたのになぁ……」
そんなこと考えたところで意味がないとはわかっていても、どうしても考えてしまう。
「……私、卒業までに夜クンに伝えられるのかな……?」
自分の心に秘めた想いを確かめるように、瑠璃は自分の胸に手を置いた。
そして、次第に恥ずかしくなり頬が赤色に染まっていく。
頭をぶんぶんと振り回し、羞恥心を追い出す。
「さてと、さっきの続きを……って、あ、ノートパソコン夜クンが持って行っちゃった……」
部活動紹介は一応対面式の役割も兼ねているので在校生である二年生、三年生も参加しなければいけない。だが、それまでにはまだ時間がある。
故に、先程のギャルゲーの続きをして暇を潰そうと思ったのだが、肝心のノートパソコンは夜が部活動紹介で使うため回収し、今ここにはないのだ。
つまり、続きは出来ないということで……。
「……暇だなぁ。夜クン早く帰ってこないかなぁ……」
窓の外を眺めながら、瑠璃は退屈そうに、けれど嬉しそうに呟いた。
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