第17話 連休⑧

 花楓が去り次の日が訪れた。花楓がいなくなってから残された3人は会話が弾まなくなった。花楓を見送った帰りに途中で寄った買い物でも、その後の夕食でも気まずい感じの時間が流れた。そして今日は私が去る日である。準備は昨日の夜のうちに済ませてある。今日は朝ごはんをたべてお昼前に出発する。そうすれば、夕方には到着するはず。私は、実乃梨さんと哲人さんに見送られ、駅のなかへ入っていった。

 新幹線に乗ってこの人で溢れた都会を去る。車窓から流れすぎていく高いビルや四角い建物を眺めていたが、適度の揺れによってなのか次第に眠りへいざなわれていった。ゴールデンウィークってなにがゴールデンなんだろう…。そんなことを思いながら目を閉じた。


 そして、私は今の家に帰ってきた。時刻は午後3時を過ぎた。まだ日の光は空から降り注ぎまぶしい。疲れた。明日は学校だし、もう寝ようかな。そう思い、帰宅早々お風呂を沸かす。その間に荷ほどきをし、明日の準備も済ませた。ちょうどそのころに、お風呂が沸いたので入る。

「はぁ~~~。ここのほうがおちつく~。」

 湯船に顔がすれすれのところまで浸かる。じっと天井を眺め、虚無へと入り浸る。しばらく脱力して口をポカーンと開けていると、インターホンが鳴った。ピンポーンという音にうつつを取り戻す。気が付けば、午後4時を回っている。ゆっくりと身体を起こして、お風呂からあがる。脱衣所に行くと、ドアが開閉する音や足音などが聞こえてきた。

 もしかして泥棒?鍵はちゃんと閉めたはずだけど・・・。

 さすがにそのままの恰好ではいけないので、タオルを身体に巻いて脱衣所から覗き込むように顔を出してあたりを警戒しながら、物音を立てないように歩き始めた。そして、リビングに顔をのぞかせてみると、テーブルの上に何やら買い物袋と箱が置かれていた。それを見ているうちに何者かに手を取られ、抱きつかれた。

「ようやく会えたね、結衣ちゃん!」

 それはそれはさくらさんだった。

「ちょっと待って!私、まだ服着てないの!」

「え?ほんと?じゃあ確認してみるね。」

「いやいや、しなくていいから。」

「んん?どうしたの?そんなに強く抱きついて、私から離れたくないのかな。」

「ちがう!離れたら、見えちゃうでしょ!」

「そんなに照れなくてもいいのに。」

「照れてない!」

「でもさぁ、この状態のままじゃ、風邪ひいちゃうよ。それに、もうお尻は見えてるし。」

「ん~~~。」

 私はジャンプして、私より身長が高いさくらさんの顔を頭突きした。その間に床に落ちていたタオルを拾ってくるまる。

「あ~、暴力はだめなんだよ。」

「これはいいの。防衛のためなんだから。」

「私はまだ何もしてないよー。」

「まだって、やっぱり何かするつもりだったんでしょ?」

「正解!だって私は結衣ちゃんのこと大好きだもん。」

「・・・。」

「結衣ちゃんは私のこと嫌いになった?」

「・・・。」

「どうしてそっぱむくのかな?」

 そういわれて正面を向きなおすと、目の前にさくらさんの顔があった。さくらさんは私の肩に手を置き、顔を近づけてくる。どうやら、すぐには立ち上がれず、両手もタオルを持っているので精いっぱいで逃げられそうにないようだ。息をのんで目をつむった。さくらさんの唇が私に触れ、それから私の中にさくらさんが入ってくる。少し私の中を撫でまわしてから、さくらさんは私を床に押し倒し、今度はしつこく絡めてきた。私はそれに対抗しようと最大限逃げ回る。でも、口の中は狭く、逃げ切ることなど到底できなかった。しだいに身体が熱く火照り、タオルを握る力も強くなっていった。全身が縮こまって迫りくる波に対抗しようとする。鼓動は速く、息遣いは荒くなっていった。時々、声が漏れ、その度にどんどん波が近づいてくるようだった。もうむり、限界。私は握っていたタオルから両手を離し、思いっきり突き上げた。すると、さくらさんが変な声をあげ、私から離れた。どうやら私の手が触れたのはさくらさんの胸だったらしく、さくらさんは両手でクロスしてガードしていた。

「びっくりした。」

 さくらさんはそう言って、私を見つめていた。その視線の先にあったのは・・・。

「「あっ!」」

 あらわになった私の胸だった。理性を取り戻した私はすぐに脱衣所へ駆け込み、ドアを閉めた。さくらさんはドア越しに謝ってくる。

「ごめんって。」

「・・・。」

「結衣ちゃんは小さくてかわいいし、私は好きだよ。」

「・・・・・・。」

「お詫びに高級なお肉買ってあるから食べよう、ね。」

「お詫び?」

「うんうん、そうそう。お鍋にして食べよう。」

「それってさっきテーブルの上においてあったやつでしょ。もともと食べるつもりのものだったよね。お詫びとか関係なしに食べてたよね。」

「結衣ちゃんが好きなくらい食べていいから。ほら、たくさん食べたら大きくなるかもしれないよ。」

「・・・わかった。服着るから、準備してて。」

「うん、待ってるね。」

 ということで今夜は鍋パーティーをすることになった。


 少し時間が経ってから、私は脱衣所から出た。まだ鍋の準備は完了していなかった。私は、だまって椅子に座り、さくらさんが調理している様子をながめる。包丁で野菜を切る音と目の前でお湯を沸かすホットプレートの音を聞きながら、ただ黙って待った。


「結衣ちゃーん。起きて。」

「んん?何?」

「お鍋できあがってるよ。」

「ふわぁ~。」

「大きな欠伸いただき。」

 目の前にさくらさんがスマホを構えていた。

「ちょっと!肖像権!」

「ええ?肖像権?だって結衣ちゃんのことは好きしていいって公認されてるから大丈夫だよ。」

「ど、どういうこと?」

「それは秘密だよ。さあ、食べよう!」

「まあいいか、たぶん花楓が何か言ったんでしょ?」

「それはどうかな。でも花楓さんに一度合わせてほしいかな。」

「いやだよ。」

「どうして?」

「なんかめんどーなことになりそうだし。」

「そんなことないよ。二人で結衣ちゃんをかわいがるだけだよ。」

「うう、それがめんどーなんだけど。」

 会話の間に鍋から器に盛られたものをさくらさんから受け取り、お肉から口にする。

「うん、おいしい!ふふっふ。でも、熱い。」

「ふふふ。それは当たり前だよ。鍋だし。」

「そっか、鍋だからか。」

 二人の笑い声が響く。そして、私たちは久しぶりの二人での食事を楽しんだ。

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大学でまたぼっちかと思っていたら予期せぬ恋人ができてしまった。 沖田一文 @okitaichimon

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