第16話 連休⑦

 1時間くらいで私の荷造りは終了した。結衣に手伝ってもらったから予想以上に早く終わった。結衣の過去の話をきいて、それから今の結衣の様子を見ると、結衣にはまだまだ心に穴があいている。それは以前からわかっていたけど小さくなることもなく、むしろ大きくなっているように思えた。このままでは結衣はまた壊れてしまう。あの事件があった後の結衣のように。両親がいない結衣はどれほど寂しいと思っているか、わからない。結衣自身はその寂しさに気づいていないかもしれない。私はずっと結衣のその寂しさを埋めようと、結衣の心を埋めようとしてきたけど、私ではそれを埋めることはできなかった。それに私は高校のときに恋に目が行ってしまって結衣のことをちゃんと見てあげられなかった。そのことによって結衣をさらに寂しくさせてしまった。そして、結衣はついに自立する道を選んだ。それは私たち家族から離れるということ。私が行く大学ではなく、結衣が自分で決めた大学に行く。そのことは私から、私たち家族から逃げていくように思えた。実際、そうだったと思う。結衣の心の穴を埋めるどころか、さらに広げてしまった。だから、せめてこれからずっと結衣の味方でいよう、結衣が困っていたら支えてあげようと思った。そして、結衣の隙間を埋めることができるとしたら、やっぱり愛。結衣のこと思ってくれる人がいて、結衣はその人のこと思う。それによって少しでも結衣の傷が癒えると思った。その結衣のこと思う人は残念ながら私では務まらなかったけど、結衣は大学で友達ができたといっていた。それもちょっと照れながら。これはきっと恋をしているのだと思う。ようやく結衣のことを思ってくれる私以外の人が現れたのだと。前置きはこのくらいまでにして、私はその人と結衣をくっつけるために尽力を尽くすことにした。

 一仕事終えて結衣と二人でベッドに寝そべって休んでいたところに結衣に言いだしてみる。

「ねえ結衣。その結衣の友達と連絡してみたいからさ、その人の連絡先とか教えてよ。」

「いいけど、何するつもり?」

「ちょっと話するだけだよ。」

「わかった。スマホもってくる。」

「うん、わかった。って持ち歩いてないんかい。」

 結衣が自分のスマホをもってくる間に私もスマホを開いて確認する。悲しいことに誰からも連絡が来ていない。

「持ってきたよ。どうすればいいんだっけ?」

 スマホ持ってきた結衣はベッドに座り訊いてくる。私も体を起こして隣に座った。

「ちょっと貸して。」

 と結衣のスマホをとり、すばやく連絡先を交換した。友達が一人しかいないのですぐに誰が友達なのかもわかる。

「さくらさんっていうんだね。まあ電車にいるときにでも連絡してみるよ。」

「あ、でも、誰かわからないとフレンド登録してもらえないかも。」

「その点においては大丈夫。」

「そうなの?やっぱ花楓はすごいね。さすがは友達たくさんいる人は違う。」

「まあ結衣はさくらさんとの仲を深くすればいいよ。」

「そうする。」

 そしてお昼までいろいろと話をした。


 昼食を食べたら、私は大学のほうへ戻らなければいけない。結衣たちは駅まで送ってくれることになっていた。車で駅近くの事務所に行った。そして私はそこで別れを言った。

「ここまででいいよ。じゃあね。結衣も。」

「ほんとにいいの?」

「お母さん、また帰るとき連絡するね。」

「ええ、いってらっしゃい。」

「またね、花楓。」

 結衣も手を振ってくれた。

「うまくやるんだよ、結衣。」

 最後に姉らしく振舞って私は駅に向かって歩いた。


 電車に乗ると、お母さんに連絡をいれておく。それから、結衣の友達、そして恋人であろうさくらさんに連絡をしてみた。

「こんにちは。初めまして。結衣の姉、花楓です。」

 って感じに送信してさらに信用してもらうために1枚の画像を送る。こっそり撮っておいた結衣の寝顔だ。するとすぐに返事がきた。

「初めまして。大枝咲良と申します。

よろしくお願いします。」

 丁寧な言葉で返事が来る。

「よろしく。もうちょっとラフな感じでいいよ。」


「わかりました。それで花楓さん。なにか用事があるのでは?」


「結衣のことについてなんだけど。」


「ごめんなさい。妹さん嫌がっていましたか?」


「いやいや、結衣がお世話になってますって言いたかったんだけど。」


「あ、こちらこそ。」


「結衣のことは結衣でいいよ。それで結衣とはどんな感じなのかなって気になって。二人は付き合ってるの?」


「結衣ちゃんはそう言ってたんですか?」


「ん~。友達って言ってたかな。」


「やっぱりそうですか。」


「でも、大丈夫。私が結衣とうまく付き合えるように手伝うよ。」


「いいんですか。」


「もちろん。可能な範囲でなら何だってするつもりだよ。」


「実はゴールデンウィークの後半に2人で何かをするつもりでいたんですけど。そのことを私が全部決めるってことになったんです。」

「それで結衣ちゃんは私とは友達という認識しかしていないらしく、それをなんとかしようと、デートプランを練ったんですけど。結衣ちゃんとはどうしたらいいですか?」


「なるほど。結衣はなんか言ってた?」


「星が見たいとは」


「星か~。たぶんプラネタリウムのことだと思うけど。」

「正直、それについてはわからないな。でも、結衣に彼女アピールするにはやっぱり積極的にいくのが一番だよ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「それと、結衣のコーデについていろいろと面倒みてほしいかな。結衣ってあんまりそういうファッションとか、自分について興味ないから。」


「そうですよね。元がかわいいからもっとかわいくできるのにって思いますよね。」


「そうそう。だからその辺りのこともお願い。」


「わかりました。おまかせください。」


「ちなみに結衣とは本人が嫌がらなければ一線を越えてもいいからね。私が許可します。」


「了解です、許可もらいました。がんばります。」


「うん。ファイト!」

「それじゃあ、なにかあったらいつでも連絡してね。結衣と違ってスマホはいつも持ち歩いてるから。」


「はい。ありがとうございました!」


 こんな感じにさくらさんと交流を始めたのだった。

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