第15話 連休⑥
朝起きると、実乃梨さんや哲人さんはいつもどおり私に接してくれた。私もこのくらい気持ちを押し隠そうとがんばってテンションを上げる。今日は、花楓が戻る日。だから、明るくしておかないと。その無理に明るくふるまうことで朝食の食卓は微妙な感じになってしまっていた。
「花楓、荷物はまとめ終わったの?」
実乃梨さんが花楓に訊く。
「いや、まだだよ。」
終わっていないことが当たり前という感じで花楓は答える。
「ご飯食べたら、すぐにやってね。」
「うん。じゃあ結衣も手伝って。いいでしょ。」
にっこりとこちらに向けられた笑顔。こういうところが花楓のすごいところ。私が花楓のことを好きになった原因なのかもしれない・・・。いや、それは過去のはなしでそんな変な意味でってことではない。おかしな思考を追い払って了承の返事をする。
「いいよ。」
間の空いた返事をしたせいか私以外の3人は箸をとめ、私を見る。
「な、なに?なんでもないよ。私は大丈夫だから。」
慌てて言葉を並べる。
「結衣、はやく食べてしまおう。」
花楓が逃げ道を作ってくれたのでそれに従って私たちはご飯を食べ進めた。
食事を済ませると、私たちは花楓の部屋へ向かう。花楓の部屋に入ると、そこは見事に散らかっていた。
「え、もうこんなに散らかしてるの!?」
「いやあ、だって荷物をバックからだしてさ、どうせすぐ家出るんだし、なんかしまう気にもならないじゃん?」
「だからってここまで散らかさなくても・・・。」
「じゃあ結衣の部屋はどうなの?」
「私はそんなにものないから。そもそもあんまり荷物のなかから出さないし。」
「え、じゃあどうしてるの?」
「必要な時にそれだけだして、使わなくなったらまたそこに入れるだけ。」
「そんなめんどーなことやらないよー。」
「まあとりあえず、散らかったものをまとめるところからはじめようか。」
「おっけー。」
こうして私たちは床に散らばった花楓のものを拾い集める。
「ところで、結衣の両親のこと、きいてもいい?」
花楓が話しかけてくる。
「ん~、花楓ならいいかな。」
「そう?でも今、あんまり考えずに決めたよね。話したくないものなら別にそれでいいけど。」
「いいの。花楓は私のために頑張ってくれたから。このくらい話すのはどうってことないよ。・・・ただ・・・・。」
「ただ?」
「うん、この話を聞いちゃうと花楓まで暗くなってしまうと悪いなあって。」
「結衣もなかなかだよ。結衣だって私に対して優しく思ってくれてるじゃん。結衣が気負うことないよ。いや、結衣の負担は私の負担でもある。だから、話してその苦しみを分けてよ。」
花楓は手をとめて私のことを見た。その目を見て私は決心した。
「私の両親は家で死んだみたいなんだ。強盗が入って、それでその人たちに殺されたみたい。私はそのことをいまだに思い出せない。そして、両親が殺されてしまったことについても何も思わない。何も思わないっていうと違うかもしれないけど、へぇ~そうなんだって感じにまるで興味のない他人のことのように。ニュースでみる事件のことのようにひとごとのようだって思っている。」
「別にそれでもいいじゃない?どう思うかなんて個人によって違うわけだし。こうおもわなきゃっていうのはないと思うよ。」
「そうだね。でもそれだけじゃないの。あの事件には私もいたらしいの。でも私だけは殺されることはなかった。どうしてだと思う?」
「・・・・。」
「ごめん、こんなことを聞くのはいじわるだったね。私は殺されずに犯人に連れていかれた。それから、2週間くらい私は犯人のおもちゃにされてたらしいの。」
「犯人の、おもちゃ?」
「その、恥ずかしいこと、えっちなことされてたらしいの。」
「ああ、それでか。」
「それで?」
「いや、なんでもない。」
花楓は何かを思い出したらしいけど言ってくれなかった。
「というわけで私も被害を受けたわけなんだけど。」
「それについても実感がわかないってことね。」
「うん。」
「まあそのときは、結衣であって結衣じゃなかったんだから、思い出す必要もあれこれ思うのも別になくていいんじゃない?」
「花楓はそうやって私を真実から遠ざけるけど、ほんとにそれでいいのかな。」
「いいかどうかは知らない。結衣の過去がどうであれ、結衣は結衣だよ。いまのままでいいんだよ。心残りがあるんなら、それを埋めるくらいこれからいっぱい思い出を作ろうよ。楽しい思い出であんなことがあったけど別にどうたってないやって思えるくらいさ。」
「わかった。花楓がそういうならそうする。」
「うん。そうだよ。よし、じゃあ今度はこの荷物をバックに詰めるから、言ったものをちょうだい。」
「うん。」
私は花楓のいうとおり、過去のことは置いておいて今を、これからを楽しんであのことを埋めることにした。気分を一新して私たちは花楓の荷造りに集中した。
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