第14話 連休⑤

 連休2日目は花楓と二人でゲームをして盛り上がり、日が暮れるころに2人で散歩をしに家を出た。

「ねえねえ、花楓はさ、私のことどこまで知ってるの?」

「何を突然。」

「ほら、私は中学以前の記憶がないから、どうだったのかなって。」

「結衣とはずっと小さいころから遊んでいた幼馴染だよ。まあ今は家族の一員だけど。その、結衣が記憶を失う前は私のほうが結衣に引っ張られて遊んでいたんだよ。」

「そうなんだ・・・・。」

「ああ、無理に思い出そうとしないで。別に覚えていてほしいとかじゃないし、むしろ、今は私が結衣のことをお世話できる側になってよかったとも、正直思ってるから。」

「どうして?」

「こんなこというと誤解しちゃうかもだけど、結衣がショックで記憶を失って、回復しない間、私は自分が変わるきっかけになったと思っているんだ。お母さんに結衣のこと見ててほしいって言われて、結衣のところにお見舞いに行って、放心状態の結衣を見て、思ったんだ。私が、結衣の支えになる、結衣を一生面倒見ていくんだって、今度は私がお姉ちゃんになるんだと決心したんだ。そのおかげで、私はすごく幸せになれたと思う。」

「私が花楓の家に住んで、邪魔だって思ったことはないの?私が花楓にまとわりついて迷惑だって思ったこととか。」

「どうかな。あったかもしれない。でも、でもね結衣のほうが大変な思いをしているから、私が支えなきゃなって思いは変わらないよ。私はいつまでも結衣の味方だから。」

「そ、そう。ありがと。」

「なんで、結衣が照れてるの。私だってこういう話照れるんだから。」

「あはは。それと、私の両親のことなんだけど。どうして、死んじゃったか知ってる?」

「・・・・そういえば私も知らないな。まあ事故だとは思うけど。」

「そっか知らないか。」

「帰ったらお母さんに訊いてみる?」

「そうだね。少しでも両親のこと知れたらいいって思ってるし。」

「そっか。だいぶ日も落ちたし、寒くなってきたから帰ろう。」

「うん。」

 私たちはふらふらと目的もなくうろついていたが、目的地を家にして帰り始めた。



 家に帰ると、夕食ができていた。豪華な料理で埋まった食卓に集まり、ごはんを食べた。明日の午後に花楓が大学のほうに戻るので大変なごちそうで、食べるのに忙しいくらいだった。そして、私は食後の片づけのときに話を切り出した。

「実乃梨さん、教えてほしいことがあるんですけど・・・、いいですか?」

「なあーに?私にわかることならいいよ。」

「私の両親のことなんですけど、どうして死んだのか何があったのか教えてほしいなって。」

 場の空気が明らかに下がるのを感じた。実乃梨さんは哲人さんをアイコンタクトをとってから、洗い物をやめた。

「どうして知りたいの?」

「少しでも両親のことを覚えていたくて。そのきっかけになればと。」

「世の中には知らないほうがいいことがあるの。それはわかっているでしょう。」

「でも、私は知りたいんです。」

「それでも教えることはできないわ。」

「ちょっとお母さん、結衣が知りたいって言ってるんだから、教えてくれもいいじゃん。」

「花楓はちょっと黙ってて。」

「いやだ。私は結衣の味方だもん。結衣のためならなんだってする。」

「教えないのは結衣のためなの。」

「お母さんは何がしたいの?いいじゃん結衣の親のことを結衣が知っているほうがいいに決まってるよ。」

「ちがうの。そうじゃないの。」

「わかった。私が教えよう。」

 母と子の言い合いに口を挟んだのは私ではなく、哲人さんだった。

「私が結衣ちゃんにだけ教えよう。花楓と実乃梨は花楓の部屋で待っていなさい。結衣ちゃん、真実を聞く覚悟は本当にあるのかい?」

 哲人さんは私に対してまっすぐ向いて言った。

「はい、あります。」

 私は真剣にそれに答えた。


 花楓と実乃梨さんが去ったあと、私と哲人さんはリビングのソファにすわり、作ってポットに入れておいた温かいルイボスティーをカップに淹れると、哲人さんは話し始めた。

「ぼくが結衣ちゃんの家族に会ったのは、結衣ちゃんと花楓が幼稚園で仲良くなってからだった。結衣ちゃんのお母さん、そらさんと実乃梨が同級生だったみたいでそこから頻繁に家族ぐるみで会うようになったんだ。一緒に遊園地にいったり、キャンプにいったりしたこともあったな。結衣ちゃんのお父さん、侑真はあの若さで会社の幹部になってぐんぐん業績をアップさせた人ですごい人だった。ぼくは侑真と友人になって、たまに相談されることもあったんだ。そんな感じでそれぞれ仲良くやっていたんだ。あんな風になれたのは結衣ちゃんが幼稚園で花楓に声をかけて友達になってくれたおかげだよ。」

 ここで哲人さんはカップに入っていたルイボスティーを飲み切ってまたポットからカップにいれた。

「それであの事件が起こるまでは楽しくやっていた。」

「あの事件?」

「この事件をきっかけに結衣ちゃんの両親は亡くなり、結衣ちゃんは事件を含め、以前の記憶をなくしてしまったんだ。」

「事故じゃなくて事件ってことは・・・・。」

「そう、この事件は他人によって起こされた凶悪事件だ。犯人は二人。」

「つまり、お父さんとお母さんはその二人に殺されたってこと!?」

 哲人さんはうなずいて話を続ける。

「そして、二人は結衣ちゃんの家の財産を盗み、加えて結衣ちゃん自身も誘拐していった。犯人と結衣ちゃんが見つかったのは事件が起こってから2週間後だった。結衣ちゃんはその犯人の2人になにをされていたかわかるかい?」

「・・・・。」

「やっぱりこれを知るのはやめておいたほうがいいか。」

 問いに困った私をみて哲人さんはそういった。

「大丈夫です。教えてください、私に何が起きたのか。」

 私は必死に願い出た。

「じゃあ、さらっと言うけど、結衣ちゃんは誘拐されて凌辱を受けた。そして、心身ともに自我を失い、犯人の思うがままにされていた。これが結衣ちゃんが記憶を失った原因だよ。両親を失ったショックと、自分に降りかかる魔の手によって思考がとまってしまったんだろう。でもそれは、結衣ちゃん自身を守るためでもあった。何もかも忘れることによって結衣ちゃんは新たな生活を歩みだすことができたんだ。まあ、最初は大変だったけど、花楓と実乃梨が結衣ちゃんを受け入れてくれたから、結衣ちゃんは普通の人間としてここまで成長してくれた。ありがとう、結衣ちゃん。ここまで育ってくれてほんとうにありがとう。」

「え、いや、そのこちらこそ。」

「まだのみこめていないみたいだね。」

「えっと、つまり、私の両親は家で殺されて、私は誘拐されて、その恥ずかしいことされたってことですよね。」

「かなりざっくり言うとね。」

 確かに私は話の内容をのみこめないでいた。

「それ飲んじゃって。」

 哲人さんに言われて、ルイボスティーを飲み干す。

「じゃああとはぼくがかたつけておくから、結衣ちゃんは花楓のところにいってもう大丈夫だって伝えおいてくれる。あとはお風呂に入って好きにしていいから。」

「はい。話してくれてありがとうございました。」

「気にしないで。むしろ結衣ちゃんのほうはあまり考えすぎないでね。」

「はい。」

 こうして、私は真実を知り、夜を過ごした。


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