縁日

@aokurage

第1話 ワニの夢

 縁日はにぎわっていたし、それは永遠に続くものと思われた。

 1970年代頃の話だ。

「3」がつく日ともなれば、街のあちらこちらから、子供らがあふれ出て、境内は盛況となる。

 そこには、あらゆる怪しげな露店が軒を連ねていた。リンゴ飴、カラーひよこ、銀玉鉄砲、綿菓子、ソフトビニールのアニメキャラクター人形、どういう訳だか、小さなワニを売る店まであった。

 甘ったるいような、ソースがかったような、未知の臭いが充満し、小学三年生の隆はそれを嗅ぐだけでも楽しくて仕方なかった。

「さっき、ワニを売ってる店があったよ」

「嘘よ」と、母親の佳恵は取り合わない。

「本当に、売ってたんだ。小さいやつ。タライの中に入れて」

「そんなの、大きく育ったら、どうするの?」

 どうするんだろう? クラスの中でも三番目に背の低い隆は、そこまでは思いつかなかった。

 実際に飼ったことがないので、分からないが、本当にどうなるのだろう?

 ワニが自分の背丈より大きくなったら?

 きっと、タライなんかでは飼えなくて、風呂桶でも用意しなくてはならないだろう。いや、動物園で見たワニは、もっとすごくて、ガバッ!、と牙をむけた恐ろしげな口だけでも1メートルはあった気がする。

「ワニが買いたい」

 佳恵は、馬鹿馬鹿しい、もう帰る時間よ、とばかりに、境内の駐車場に停めてある車へ、と足を進める。隆も渋々、続く。

 白いギャラン。

 車体のあちこちに、すり傷があるが、佳恵は気にならないタイプのようだ。

「おえっ」ってなるので、隆は車は苦手なのだが、佳恵と隣り合わせで乗る。彼女は慣れた手つきで、ハンドブレーキをあげ、クラッチを踏む。通りに出ると、アクセルをぎゅんと踏み、景色が足早に流れていく。

 父がいた頃、そう、彼の運転していた頃は、こんな、急な加速はなかったので、父はおそらくは慎重な人間だったか、母とは真逆の性格だったのかもしれない。

 










 

 

  


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