カリオヤシ
安良巻祐介
赤い空、地平線を縁取る黒い山の影。焚き火の香りと音とをぼんやり聞きながら呆けていると、ふと茶色い手が後ろから伸びて来て、火の中の餅をねだる。何度もねだる。手は妙に大きくて、尋常の人ではない。しばらく戯れていたが、あまりにしつこいのでゆっくりと鬱陶しくなって、焚き火の脇にあった、熱く焼けた白い石を掻きだして、金ばさみで挟んで放り投げてやると、それを勇んで掴むや否や、ぎゃーっと物凄い悲鳴が上がって、背後で地響きと共に大きな影がばりばりばりと倒れた。土煙りが収まってから立ち上がって見に行ってみると、年老いた銀杏の木であった。木の枝の合間に先ほどの石が食い込んで、ブスブスと音を立てて焦げている。さては百年の退屈を持てあまして、悪戯心と手の出たものか。銀杏の葉がいっぺんに散り落ちて、あたりはさながら黄金の絨毯を敷いたような美しさ、そしていよいよの静寂が水のようにそれを満たしていた。気の毒をしたような、この綺麗な黄金敷きを見たらそんなことはどうでもよくなるような、何とも云われぬ心地であった。
カリオヤシ 安良巻祐介 @aramaki88
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