第18話 ネームドとの戦い


 ヴラド城の攻略は順調に進み、遂に未踏エリアに踏み入れた。


 ヴァニティーとイヴリースが先陣をきるのでユウトは一度も戦うことなくここまで来ることができた。


■■■


「ユウト様、いよいよここからは誰も踏み入れた事の無い階層になります」


「そうか、なら気を引き閉めなければいけねぇな」


 更に暫く進むと大広間に出る。そしてその中央にはフードを目深に被った者が一人。そしてその奥には尋常じゃない雰囲気を纏い人とは思えない老紳士がいる。


 おそらく彼らのどちらか、もしくは両方が未確認の魔物であるのだろう。


 先陣をきっているヴァニティーがその二人に問う。


「なんだお前たちは!?」


「……それを教えるメリットがこちらにはありません」


「そうか……ならマローという冒険者を知っているか?」


「マローですか……はて誰でしょう?」


「ここで貴方が倒した冒険者の名です」


「そうですね、確かにそのような名前の冒険者を倒した気がしますね」


「やはりそうですか……なら大人しく私たちに倒されてくれませんか?」


「それは出来ない相談ですね、逆に貴方たちが大人しくこのヴラド城より引いてくれませんか?」


「それこそ出来ない相談ですね、貴方が何であれAランク冒険者を倒した事実は看過できない事実です。野放しにすることで皆の平和が脅かされるのです」


「どうやら話は平行線のままのようですな。では実力行使させていただきましょうかな」


 後ろで話を聞いていた老紳士が前に出てくる。


「そうか……ならお前の相手は俺がしよう。イヴリースはそっちのフードの奴を頼む」


「ええ、分かりました。ではフードさんはあちらで戦いましょうか」


「フードではない! 私には魔王様に貰った名前があります!」


「やはり貴方はネームドなのですね」


「そうです私は魔王様に仕えし一柱、[レイ]です」


「そう、今度は簡単に教えてくれるのね」


「ここで死ぬ貴方に何を話そうと問題ないのです」


「言ってくれるわね」


 いよいよ戦闘が始まりそうなイヴリース達と同時にヴァーニティも老紳士と戦闘が始まる前に話をする。


「お前は、人なのか?」


「フォフォフォ、この私が人ですと?」


「まぁ違うだろうな。一体何なんだその尋常じゃない気は」


「そうですな、この姿は仮の姿とだけもうしておきましょうか。もし貴方が私に傷を付けられたならお教えしましょう」


「言ってくれるじゃないか。なら是非とも洗いざらい話して貰いましょうかね」


 こうしてイヴリースとレイ、ヴァーニティと老紳士の戦いが始まった。


■■■


「おいおい、その気配は見せ掛けか?」


 ヴァーニティが老紳士を一方的に攻め立てる。


「ふむふむ、いやはや面白いものですな」


「何がだ!?」


「いや何だ、久しく冒険者と戦っていなかったのでな。戦い方が斯くも変わるものなのだなと」


「ほう、さては魔道具を使う奴を相手にするのは初めてなのか? なら篤と味わわせてあげますよ!」


 ヴァーニティが持っている魔道具から様々な魔法が放たれ、そこに剣撃が追い討ちをかける。そして煙が舞い姿が見えなくなる。


「やったか!?」


「ふむ、こんなものですか」


「なっ! これでも無傷だと……」


「他には何も無いのですかな? 向こうも終わりそうですし、そろそろお遊びは終わりましょうか」


「舐めやがって!」


 力の差は歴然としているが、未だに無傷なのこともあり引くことは出来ない。


「ふむ、これだけ実力差があることがあると分かって向かってくる心意気や良し。少しは本気を見せましょうかね」


 すると老紳士の右腕が変化し、巨大な腕になる。そしてその腕が振るわれると床は抉れ、ヴァーニティは原形を留められずに吹き飛ばされる。


「少々やり過ぎましたかね……さてレイはどうですかね」


「ガル爺やりすぎだよ」


「おやそちらも終わったのですか?」


「ええ、少し手こずりましたが問題なかったです」


 後ろでは、『お姉さま!』とイヴリースに付いてきた女騎士達の悲鳴が響いている。


「さて残るは彼らですか」


 先陣をきって挑んだヴァニティーは殺され、イヴリースも重症を負っている。


 そして狙いはユウト達、勇者一向に定められた。


■■■


 戦闘の趨勢は一瞬で決まった。ボロボロになったハヤトは神官に命からがら寸でのところで守られ敗戦は免れない状況になる。


「おい、アイツは一体何なんだ!」


「分かりません。……ですがこれまでに見たことの無い魔物であることは間違いありません!」


 他のパーティーメンバーも考えて答えを出すが、明確なものは出てこない。


「大聖剣の攻撃が全く通用しないなんて、そんなバカな話があるか!」


 ボロボロになり敗走しようとしていた勇者一向だが、ハヤトは己の力を過信し再び攻撃体制に入る。


「うおぉぉぉぉぉ!」


 勇者が攻撃を始めたので他のパーティーメンバーも逃げるのを止めて攻撃に転じるのだが、魔法はあっさり交わされ勇者の剣擊も届くことがない。

 逆に剣を振り下ろされて万事休すな状況だったが、重装備のタンクが間に入り事なきを得る。


 そしてボロボロになった勇者一向に声が掛けられる。


「まだ戦いますか? 貴方達の実力では何度挑んでこようとも同じ結果しか得られませんよ。二度とここに近付かないことを誓えるのなら、見逃してあげますがどうしますか?」


 もはや勇者一向は脅威に思われず、見逃しても全く問題無いと判断されたのだ。

 そもそも勇者であると認識されているかどうかも怪しい。


「舐めやがって……」


 勇者は逃げることに納得出来ない様子だが、勇者一向に付いてきている神官が説得する。


「勇者様、今は辛酸をなめることになろうとも体勢を整えれば、必ず倒せる可能性があります。されどそれは命があってこそです」


「だが……分かった。今は引くが、次は必ず奴を殺す!」


 こうしてボロボロになりながらも勇者一向は逃げ帰ることになった。


■■■


 勇者が魔王ですらない謎の魔物に破れる。


 このことが広まってしまうと聖騎士団、はたまたそれを従える教会の威信に関わるということで、この事実は隠蔽されることとなった。

 しかし不安は伝播し何処からともなくその事実は市井で噂となる。

 そしてこの日に勇者一向が出会った魔物は人類の新たなる脅威、ネームドとして認識されることとなった。


 人型で謎の仮面を被った魔物でその正体は不明。

 種族も不明であり、魔王が生み出した新たなる魔物と噂される。


『人類最大の脅威だ!』

『最悪の魔王の再来だ!』

『勇者が倒せない最強の魔物なんて……』


 こうして聖都市は不安に包まれる事態となってしまったのであった。

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クズ勇者は異世界を嗤い歩む。 シグマ @320-sigma

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