第17話
僕は、ピンクの部屋で目を覚ます。今日で最後になるのか。僕は少しだけ寂しさだあった。
「雛、いつまで寝てんだよ。予定があるだろ」
部屋の外から鮎川さんのお兄さんの声がする。お兄さんは、どこか機嫌が悪そうだ。
そして鮎川さんは、先週お兄さんと何かする予定だったのだろうか。
「起きてるよ。今日って何かあった?」
僕は、鮎川さんの声に似せる。
「忘れたのか。今日、河原に行くんだろ。本当の雛に戻るために」
「どうしてそれを」
僕は、扉を開ける。お兄さんは、舌打ちをしている。
「悪いけど、先週から雰囲気違うのくらいわかってた。昨日、知らない奴から電話がかかってきたんだよ。その声は、たとえ低かったとしてもすぐ雛だって気づいた。そして確信した。そんとき雛に言われたんだ。最上くんを連れてきてって」
やはりお兄さんは気づいていた。それは兄妹だからかもしれない。
「早く行けよ。待っているんだろ。あと最後に。お前、雛の声に全然似てない」
お兄さんは、どこか笑っているように見えた。
河原に着くと鮎川さんはもう来ていた。
「遅いよ。早く再現しよう?」
鮎川さんは、その場に寝転がった。僕も同じように寝転がる。あの日のように青空が見えるわけではなくもう雲に覆われていた。僕らのためにしているかのように。
「私、寝るから。雨降ったら起こしてね」
鮎川さんは、目をつぶってしまった。
しばらくするとあの日と同じのように雨が降ってきた。僕は、何かに取り憑かれたように鮎川さんを起こす。
「雨だ。傘さそう」
鮎川さんは、持っていた傘をさす。その傘は紛れもなく僕のものだ。鮎川さんは、僕を傘の中に入れる。そのまま僕たちは、風が吹くのを待っていたが、雨が止みそうになるのが怖かったため、鮎川さんは傘を手放す。
「今から、足を滑らせるから」
鮎川さんは、僕の腕を掴み、わざと足を滑らせた。僕らは、奇跡的にお互いの頭を打ち、その場に二人して倒れ込んだ。
「戻ったかな」
その声は、紛れもなく鮎川さんの口から出ていた。僕は、鮎川さんの腕に捕まっていることに自分でもびっくりしていた。しかし、震えなどの症状はない。
「最上くん、私に普通に触っているけど大丈夫なの?」
鮎川さんは、まだ僕を心配してくれた。その目は、優しい目だった。
「大丈夫だよ。鮎川さんだけだったらもう平気かも」
僕はもう、鮎川さんと普通に話していた。鮎川さんは、恥ずかしそうに笑う。
「もう、離してくれると嬉しいな」
僕は、思い出したように鮎川さんの腕を離す。そしてふと思う。
今日から僕たちはただのクラスメイト、部員仲間としてしか見れなくなる。僕は、朝の時と同じ寂しさを感じた。
「ねえ、最上くん」
しばしの沈黙の中、鮎川さんは恥ずかしいそうに話しかけてきた。
「私のこと、雛って呼んで」
僕は、いきなりで戸惑った。鮎川さんは、何を考えているのだろう。
「変な意味じゃなくて、私、入れ替わった時、最上くんの真似して雛ちゃんって呼んじゃったからっ」
鮎川さんの声はうわずっていた。
「いいよ」
僕は、心のそこから受け入れた。しかし、鮎川さんは、嬉しがることなくそのままでいる。
「あ、あとね、そのえーと」
僕は、この感じを知っていた。だが、何も話さず、鮎川さんから言うのを待つ。
いつのまにか雲が去り、虹がかかっていた。
僕は君で、君は僕 花月姫恋 @himekaren
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