155話

「っそん、な………!!!」

 崩れ落ちそうな膝に力を入れてどうにか地に縫い付けようと立つ。

 そうでもしなければきっとこのまま動けなくなってしまうと思ったから。助けるためにここに来たのに、それがこんなことくらいでできなくなるなどおかしい。そう強く思った。



 入口に壁を作るように、炎がごうごうと燃え上がっているその色は―――深く暗い青。別名『』と呼ばれるものだった。



 これで納得がいく。なぜこの炎が水の魔法を受け付けないのかを。

 当たり前だ、この『魔族の炎』は人の魔法ではどんな属性の魔法であっても。燃やすためではない、この炎の威力を維持するために糧として使用するのである。

 つまり、魔法を吸収すればするほどこの炎は延々と燃え続けることになるのだ。



 ではなぜこの炎が『魔族の炎』と呼ばれるのだろうか。その理由は歴史をずっと遡り、この世界でに至る。

 詳しい詳細は追ってまた書かせていただくが、その戦争時に相手側が使用したものがこの炎なのだ。相手は息をするかのようにこの炎を繰り出し、たくさんの魔導師たちや人々、あるいは他の種族を苦しめ、その命を奪ってきた。消えないのに延々と燃え続けるこれは、当時の人物たちにとってさぞ恐怖の対象でしかなかっただろう。

 ちなみにこの炎、『魔族の炎』のほかに別称も存在する。寧ろこちらの方が知っている者が多いに違いない。

 別名を『魔力殺マナキリングしの炎』という。名の通り魔力での魔法が通用しないからだ。

 今でもたくさんの国の物語や書物にこの戦争の恐ろしさや残酷さが詳細に書かれている。同じことを二度と繰り返さないために、という理由で。


 最悪の可能性が当たったことを知り、エレミアはギュッと唇を噛んだ。それからなにかを考え付いたのか、練習場でも使っていた愛用の錫杖をしっかりと握りしめると。




「えっ、エレミアさん!?」

 ―――周囲にいた魔導士の声にも気づかずに炎の壁の中へと飛び込んだのだった。

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