156話

 なぶるように身体の至るところを焦がそうとする、燃える青い炎。飲み込まれるような気がして思わず怯みそうになるものの、この先にいる怪我人のことを思い出してどうにか気持ちを押さえつける。そうして少しずつ中心に向かって歩いていけば、エレミアの目に見知った背中が映し出された。

 その相手が誰なのかを理解する前に―――




 彼女は中心に駆け寄ると同時に、持っていた錫杖を床に大きく打ち鳴らした。




 シャリィィィィィィィィィィン!!!

 銀や金、貝殻でできた鈴が互いにぶつかり、音となって涼やかに部屋を包む。

 音の広がった場所からぱちぱちと火花を散らしていた炎は少しだけ勢いを弱らせた。燃える音も少しだけ小さくなる。

 それだけでなく、外で右往左往していた者たちにも静けさが訪れた。


 そのあともエレミアは2回・3回ほど錫杖を床に打ち鳴らした。錫杖の床を打つ音はあまり聞こえなかったが、錫杖に結わい付けられていた鈴は回数分だけ部屋の中に響いた。

 そしてそのたびに炎の勢いは少しずつ弱く、小さくなっていった。

 すでに動けるまでになったグレイも、響く鈴の音に耳を傾けてただの一つも動こうとはしなかった。







 鈴の音がようやく消えると。

 エレミアはもう一度、今度は今までより大きく錫杖を打ち鳴らしてから鈴が結わい付けられた先端を、目の前に見える一際大きな炎の壁に翳した。その壁の向こうに誰かがいると―――あの悲痛な泣き声の主がそこにいると分かっていたから。

 その誰かは炎の壁で見えないが、それでもエレミアは助けたいと思った。自分は巫女メディウムで、助けるための力があると知っていたから。



 目を閉じてゆっくりと呼吸を一つ。空気が身体の隅から隅まで行き渡らせ、泡立つように興奮していた精神を落ち着かせていく。

 鈴の音で炎は小さくなった。だが、それでもまだ消えることはない。変わらず燃え続けている。全て消し炭にせんとぱちぱち火花を散らしながら。

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