154話

 幻聴かと確認のために周りをみた。本当に微かだったが確かにどこかから聞こえたような気がしたのだ。

 しかし音の発信源は分からず、エレミアは疑問に思いながらもまた隙間を使って前に進んだ。





 隙間を通り抜けることかれこれ数十分ほど経った頃。

 ようやく部屋の入口の近くだった場所の近くにたどり着くことができた。

 ここまで来るとぎゅうぎゅう詰めになっており、少ししか身動きがとれない。人との距離も近いからかたくさんの会話も耳に入ってきた。

 曰く、『やはり水の魔法はこの炎に効かず、魔導師ウィザードたちが困っている』や『誰かが中にはいるが、激しい炎のせいで様子を視認できない』、『中にいるだろう代表マスターの容態も全く分からず、そのせいで僧侶プリーストらが動けない』など。最前線に来れば来るほどより正確にどの状況かの情報が聞こえてくる。

 聞こえてきた内容から察するに、やはりこの炎に水の魔法は使えないようだ。勢いが強いからかあるいはこれとは別の要因があるからか。どちらかは分からないが救出作戦はかなり難航しているようだった。




 とまぁそれなりの情報を手に入れたわけだが。

 しかしそれはエレミアには少ししか頭に仕入れることができなかった。というのもさっき幻聴だと思っていたあの悲痛な泣き声が、より大きく耳に聞こえてきたからだ。

 どういうことなのか。聞こえるということは、この泣き声はまさか火事の現場から聞こえてくるというのか?

 より一層焦ったエレミアは、

「すみません通ります! ぶつかったらごめんなさい!」

 近くにいた者たちに聞こえるような大声で言いながら堂々と歩き始めた。


 聞こえてくる音が大きくなるにつれ、エレミアの足も駆け足になっていく。行く先々の冒険者たちに声かけるからか、気づいた彼ら彼女らがどうにか隙間を作って通り抜けられるようにしてくれた。

 そのことに感謝しつつも、エレミアは着実に前へと進んでいく。少しでも足を早め、間に合うように。






 途中駆け足になりながらもしばらくあるき続けること少し、ついに。

 エレミアは周りに押しのけられることのないようにだが、部屋の入口へとたどり着いたのである。

 そして―――彼女は突然湧いてきた不安と早く行かなければならないという思いの理由を、ようやく知ったのだ。

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