153話


           * * * * *






 外以上に喧騒と騒ぎの嵐となっている玄関前のホールを通り抜け、階段をかけ上がって三階に来てみれば。

 そこはすでにそれぞれの戦場と化していた。



 飛び交うたくさんの声。狭い廊下だというのに密集するように集まって動いている冒険者たち。

 そのほとんどが魔導師ウィザード僧侶プリーストといった者たちだ。水の魔法で火を消し止めたあと、僧侶がこの火事の怪我人を回復魔法で手当てするという手順で行うのだろう。どちらもこういった作戦では活躍の場だ、実に利にかなった対処のしかたといえた。



 だがしかし、事を運ぶことはそう簡単にはできないらしい。

 エレミアからギリギリ見える範囲だが、時おり青い""がちらちらと視界に見えており、そのなにかはなぜか水の魔法を受け付けないらしい。手立てがわからず、魔導師たちが手を焼いているようだと話し声が近くから聞こえてきたのだ。


 一体どうしたというのか。

 当たり前だが火は水に弱い。冷たい温度が熱い温度を下げ、熱を弱く小さくさせるからだ。この原理を知っているからこそ魔導師たちは水の魔法を使ってどうにか火を消そうと試している。

 しかし。水の魔法を使っても効果がないようなのだ。

 そんなことはあり得るのか。『水で消えない火』なんて、本当にあるというのだろうか。


 一瞬だけ浮かんだ一つの可能性を気に止めつつも、エレミアはどうにか近くにいけないだろうかと悩んでいた。

 それはやはり焦りがあったから。どうしてもあの火事の場所に早く行かなければという思いだけで、身体を突き動かしていた。そうすればこの思いの意味も不安も、わかるような気がしてならなかったから。


 ―――だからこそ。

 一階の広間でやったのだが身体をできるだけキュッと縮こまらせて間を通り抜ける作戦に出た。ここにいる彼ら彼女らの邪魔にならないよう、ぶつかることなく近くに行こうと思ったのだ。


 はたしてその作戦は上手くいった。

 密集するかのように動いていた他の冒険者たち。その間にはエレミアが通り抜けることのできる隙間がいくつとあったからだ。

 その空いた隙間をどうにかこうにかスルリと抜けていく。誰かにぶつかることなく確実に前へと進むために。






 そして―――廊下の半分を行ったところだったろうか。微かにだが炎の燃える音に混じって、誰かの泣き声が聞こえて来たのは。

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