152話
しかし。
だからこそ―――エレミアは次の疑問点に関しての考察が止まっていた。『誰がそのようなことをしたか』が少しも分からないからである。
エレミアはドミニクを深く知るわけではない。情報や噂など他者からの恩恵によって知ったことばかりなので、あらためて考えてみるとドミニクという人物は表面的でしか知らないのだ。
勿論これは個人情報だから彼女が知らないのは当たり前のこと。ドミニクを知りたいのならそのまま本人に直接聞けばいいのだから。
そんな彼女でも表面的なものだが分かることは一つだけある。それは『ギルドマスターには味方はいても敵はいない』ということ。つまりは助けてくれる人はいるとしても、恨んだり憎んだりするような者はいないということである。
それだけ人柄のいい中年男性なのだ、ドミニクという男は。
そうでなければ、
「とにかく今は代表のところへ行くべきだ! 火の手が上がっているということはなかが大変なことになっているに違いない…………っ!!!」
「怪我をされているかもしれない、回復の役職は急ぐぞ!」
「火を消す人員も必要よね? 水魔法を覚えてるのは!? いたらこっちに!」
――――こんなにもドミニクを助けるために動こうとする者たちはいない。
そんな光景とは裏腹に、エレミアはまだ悶々とした表情を顔に出していた。『そのようなことをした相手』が誰なのかわからず、さらにはなぜか不安が突如としてわいてきたからだ。
"漠然としたもの"と一蹴されても仕方がない。本当に何となくでしかない感のようなものだからだ。理屈で説明したくてもできるものではない。
たんなる気のせい、であってほしいが―――そういうわけにはいかないのだろうか。
どうしても気になるエレミアは、一人静かに訓練庭から歩き出すとまっすぐにホールへと足早に目指した。突然出てきたこの言い様のないものを知るため、火の手が上がる例の部屋へと向かっていったのである。
―――そして彼女は知る。
その不安の意味を、光景を・・・真実を。
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