151話

 その知らせとともに辺りはよりいっそう騒然とし始めた。話のあとにつく背びれと尾びれ以外にも、胸びれがさらについてくるようになったのである。

「嘘だろ!?」

「じゃあ爆発したみたいな音が聞こえたのも、ドミニクさんの部屋からってことか!!」

代表マスターは大丈夫なのか? 怪我をされてるんじゃあ………っ」

「あの人のことだから敵はいないだろうし………まさか、な」

 




 ―――それぞれが各々おのおのの答えに行き着くなか。

 プルプルと怖くて震えていたエレミアはというと、

(『ドミニクさんの部屋』で火の手? あそこは厨房キッチンからそれなりに離れた場所だったはずですよね……?)

 ようやく落ち着いてきたのか恐怖を払拭できたのか、早くもさらなる疑問点に目を向け始めていた。


 エレミアがあれ? と思ったこと。それは『なぜあの場所で火の手が上がったのか』ということと『発火の原因はなんなのか』ということだ。

 そもそもドミニクが使っている部屋の場所は、一階にある厨房から二・三部屋ほど離れた場所にある。そして厨房が一階なのに対し彼の部屋は三階で、部屋のある階数だって違うのだ。つまり『火の手が上がる』ということは、少なくとも同じ階でかつ部屋が隣同士でなければ燃え移ったりしないということになる。

 とはいえ『階数は違うが代表の部屋が厨房のすぐ上』という状況ならまた話は変わるのだろうが―――覚えているだろうか。以前にも話が出ているが、この傭兵組織支部のホールはもともと貴族の家だったのを改装させたものだということを。

 そもそも貴族の家というのは食事をする場所ダイニングや仕事をする場所執務室は厨房より遠く離れたところに造られる。なぜなら厨房で仕事をするのは貴族地位より下の料理長やコック・メイド・執事らの役割。家の主と雇用された者とでは、そもそも身分が違うのだ。

 だからこそ平民の仕事の場所を来客した相手に見せることは貴族として恥であり、恥ずかしいことなのである。

 ・・・そして。そういう非常に格式張ったことを知っていたからこそ、エレミアはそんな疑問を浮かべたのだ。



 次に原因となるものに対してだが・・・『煙草を嗜んでいて紙に引火し、消火が追い付かず火の手が上がったと』いう見方がある。

 書類仕事というのは体力の戦いであると同時に精神の戦いだ。休憩のため、あるいは気分を変えるためにそういった至福の一時を楽しむことも、人によってはあるに違いない。

 ―――だが、その可能性は限りなく低い。理由としてあげるならそもそもドミニクは煙草を吸わない人である。

 現役で活躍していたときは男の嗜みということで使用してはいたが、年を取るにつれて体に異変が生じていったとのこと。なので身体の健康のため、支部の代表に任命されるのと同時に煙草は一切やめたのだとか。お酒も付き合いやパーティーなどで少し嗜む程度である。






 以上のことからエレミアは他人による放火が原因だという結論に至った。それと同時に次に浮かび上がった疑問点へと焦点をあてていく。

 それは『一体誰がそのようなことをしたか』、というものである。

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