143話

 ―――秒にも満たないほどの瞬間、だった。

 何がどうなったかもわからず、さらには寸分と経たずに爆発が起きたせいで何が起こっているのか把握できない。

 ただ・・・誰かに対して声を上げるいとまも止めるために延ばした手さえも、相手に届くことはなくて。


 気つけばその一瞬の間に全てが終息へと向かっていた。






 粉のように舞い上がる砂塵と吹き荒れる爆風の共演コラボのせいで、周りがモウモウとしていてほとんど見えない。細かい粒子がビシバシと顔の至るところに当たって煩わしく、腕で当たらないようにと隠すので見ることができないのだ。

 それでも部屋の真ん中で何かが爆発したことくらいはグレイにも流石に分かった。誰かに押しのけられたかと思ったら大きな音が響き渡り、あれよあれよと戸惑っている間にこうなったのだから。



 では、一体自分は誰に押しのけられたのか。それもすでに―――彼には分かっていた。

 ・・・いや、どちらかといえばこう言うべきなのだろう。否応なく、と。





 否定したかった。違うと、だと。



 信じたかった。きっと今も傷が痛んで動けないのだと、押したのは気のせいだと。



 しかし、無情にもその一欠片は砕けていった。砂塵と爆風が収まり、見えてきた光景を目の当たりにして。









「……なぜ、ですにゃ…………」

 一歩、また一歩と部屋の中心に近づく。

 傷がジクジクと身体を止めどなく蝕んだ。しかしそれすらも気づかないほどにグレイは意識の全てをその場所に傾けていて。

 痛みで傷口がさらに開き、身体が大きく悲鳴を上げても脚を止めない。傷があるのを忘れたかのように、あるいは痛みすらも原動力に変えるかのように歩き続けた。


 一歩踏み出す毎に、少しずつ目前がぼやけた。何が原因かは知らないが、目の前が見えづらくなっているのだ。

 これはなんだ? と自身に問いたいが―――今はそれどころではない。早く〝あの場所〟に行かなければ。その想いで足を瓦礫に捕られそうになりながら、ぼやけていく視界と戦いながら、一心不乱に歩き続けていく。

 



 そして・・・ようやくその場所に着くと。

 グレイは膝を落として手を近づけた。今の爆発で焼けた彼の―――ドミニクの手を取るとしっかりと握りしめたのである。

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