144話
―――信じたかった。こんな形でお別れをするはずがないと、これはただの白昼夢なのだと。
見えるこの景色は現実じゃないと、そう思いたかった。
握った手はとても冷たく、さらにグレイの手から熱を奪わんとしていて。それが残酷にもこれは現実なのだと彼に知らしめた。
そう、ドミニクはすでに瀕死の状態だった。いつ限界が来てもおかしくないくらいに酷いものだったのだ。
爆発以前に受けた背中の傷は勿論、爆発後に増えた傷は身体の至るところにいくつもあった。その傷という傷から滲み出たり溢れたりと、赤い液体がいくつも流れを作っていて。
その液体が流れてくるたびに、一緒に出てくるかのように身体の熱は勢いを衰えさせていき。まるで風前の灯火のように、少し揺らせば消えそうなくらいになっていた。
死に間際の人間の手はこうも温度を感じないのだろうかと、握りしめながらグレイは思う。あまりにも冷たく感じてこの手だけで己の身体が凍りつくのではないか・・・? そう思うほどにドミニクの手は熱が一切なくなったかのようにとても冷たくて。それがすごく怖くて、手を話してしまいそうになる。
だが、それでもこの手を離すことなんてできるはずがない。大切で大事な人の手なのだ、ここで手放せば後悔してしまうと、力を緩めることはなかった。
両手で握りしめた
―――それがすでに手遅れだったと分かっていても。グレイは助けるのを諦めることなんて、できなかった。
* * *
一方で少女は立ち尽くしていた。瀕死のドミニクに駆け寄るわけでもなく、だからといって男―――スティーブの方にさらなる攻撃をするわけもなく。ただただその場に突っ立ったままでいた。
間際に起きたことがわからない。突然肩を掴まれたと思ったら別の方向に押しのけられ、いきなりのことに抗議の声を上げようとしたらあの爆発で有耶無耶になり―――そしてドミニクが倒れたのだ。
どうしても理解が出来なかった。
―――なぜ瀕死のあの者は自分やあの青年を守ったのだろうか、と。
言ってくれたのなら。
教えてくれたのなら。
自分でも対処できた。
その前に襲撃者の身体を押さえていた少女が気づかなければならないことだったと少女は思う。誰よりも
―――気づけなかった。
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