138話

 グレイはすかさず動こうとするものの、ズキリと身体のあちこちが痛みの悲鳴を上げて思うように動かない。

 それも当然といえば当然だが、あの容赦のない攻撃を受け止めてなお無理矢理にでも動いたのはグレイ自身だ。傷を受けた身体が悲鳴を上げるのは獣人の青年グレイにもわかっていたはず。


 それでも動かなければならないと思うのは、決して襲撃者を止めるためではない。

 かといって少女を守るためでもない。

 それもこれもすべて、この大騒動を止めたいというグレイの想い故にであった。


 歯をむんずと食いしばり、身体の激痛を耐えながら力を込める。骨がギシミシと音をたてるがそれすらも無視して、一歩踏み出した。

 絶対に攻撃を止めてみせると、その一心で。


 ―――だがその勇猛なる一歩さえも、ついには無駄になろうとしている。というのもスティーブの振り上げた片手剣は、もうあと少しというところで少女の頭に直撃せんとしていたから。



 。そう悟ってしまった。

 『後悔』と『絶望』―――その2文字が頭を過ぎってギュッと目を強く瞑った。













「っな……んだと!?」

 ―――勝てると確信した男の驚愕の声が、この部屋いっぱいに上がるまでは。


 あり得るはずのない声が聞こえてきて、そっと目を開ければ―――さすがのグレイも無意識に口が空いた。

 おもに驚きと笑みで。

「………ニャハハ、本当に凄すぎるにゃ」




 一番最初に見えたのは真っ二つに折れて刃の部分がない片手剣。

 次に見えるのはそんなはずはない、信じられないと言わんばかりに剣を凝視している男。

 そして―――未だにクスクスと微笑っている少女。その手には折れた刃の部分があった。







 彼女はいう。

 ―――『なぁんだ本気かと思ったのに。脆いしつまらないわ?』

 と。

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