134話
紡がれ聞こえてきた声は年頃の少女そのもの。このような時でなければ彼女のそれは、年相応の無邪気な反応だったのだろう。
・・・しかし。
もはやほぼ半壊状態であるこの部屋でのその反応は、場違いだとはっきり断言してもいいほどに周囲の冷え切った空気と異なっていた。
また、少女は心底楽しそうな雰囲気をかもしだしているようにみえる。だが―――そう見せているだけで本当は少しもそうでないのだと、嘲りにも見える灰色の瞳が告げていた。
困惑するような態度に男たち二人が動けない間にも、少女はぶつぶつと小言を呟いていた。言葉の内容は小さすぎてわからなかったが、何か考え付いたのか頷いたのちにトコトコと歩き始めたのだ。
深い傷を負ったドミニクには目もくれず、まっすぐに歩いてこちらに近づいて来る。正確にはマントの男の方に、だが。
怪訝そうに少女を見守るグレイ。
自分の方に近づいてきているのがわかったのか、マントの男は初めて目に見えるような動揺のしかたを見せた。目深に被ったフードを押さえつけて顔が見られないようにとばかりに後ろへ後ずさったのだ。
このまま一進一退の攻防が続くかと思われたけれど。
勝利の軍配は少女に上がった。離れようとしているのが分かったのか、なんと少女はグンと距離を積めてきたのである。それこそほんの数秒ほど、目を瞬くその隙に。
おかげで男と少女の距離は片腕の長さ一つ分になった。手を伸ばせば相手に届くくらいの近さになったのだ。
離れることができないと悟った男。今度は顔を少女から背けようとした。フードで顔は見れないと分かっていても、まっすぐに合わせるのは不快らしい。
だがしかし、それも失敗に終わる。
なぜならその前に、
―――『お話したいのになんで離れようとするの? ねぇ? 偽物さん。私から……逃げないで?』
と笑って言いながら少女は手に纏った青い炎をいきなり相手に向けて放ったのだから。
放射された青い炎が男の上半身を焼き付くさんとばかりに一瞬で覆っていく。勢いよく燃えているせいか、熱はまた荒波のように周囲へとすぐに広がっていった。
至近距離で炎の直撃を受けたマントの男はというと、覆っている炎のせいで表情は分からないが―――少なくとも必死に防御に徹しているのは見えた。
とはいえ、相手をいたぶる時間は案外短かったらしい。少女は満足そうに頷いたあと、勢いのあった炎を少しずつ弱めていく。周囲に広がった熱の温度もだんだんと下がってきているのがグレイにもわかった。
そうして炎が消えれば―――そこには楽しそうに身体を左右に揺らす少女の姿と。
―――まだ腕で顔を覆っている、見覚えのある姿が煙のなかから徐々に見えてきた。
現れた姿にヒュウッと呼吸が止まる。
どこかで見たような濃い茶髪、それなりに日に焼けた小麦色の肌。見てわかるくらいに鍛え上げられた細身の筋肉。
心臓の音がやけに大きく聞こえる気がした。
・・・そう、そこにいたのは。
「……なぜお前がそこにいるにゃ? 今すぐ……っ今すぐ答えるにゃ、スティーブ・エスタロッサ……………っ!!」
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