133話

 少女レイラの狂喜乱舞するさまは、先程の怯えた様子とは違って見えた。

 具体的にどこが? と聞かれてもわかりようがない。だが彼女の雰囲気や気配、さらには纏う空気ですらどこか別のもののような"何か"を感じる。背後から得体の知れない闇がにじみ出ているような・・・そんな不穏ともとれる不可解なものが。

 いきなりこうも変わるものなのかと、グレイは彼女に少々震えながら思う。



 また、さらにいうとなれば―――容姿も前と後で違うことだろうか。まるでさっきと今とでガラリと様子が変わって、似ている全くの別人のように見えているのだ。


 赤みがかった金色の髪は闇に溶け込むような黒が交じる青色に。


 海を思わせる蒼い瞳は光を失った暗い灰色に。


 それから―――やはりというべきか、彼女の足元には小さくも燻るあの青い炎が燃えていて。完全に消えたのではなかったか? と誰もが思ったがどうやら消えたわけでなく小さくなっただけらしい。

 ただしその炎がこれは嘘などではなく現実なのだと存在を表明しているようにグレイには見えた。

 






 場違いな少女の笑い声はいつまでも部屋に響き続ける。


 そんな中で聞こえてきたのは無機質な声。

「………誰だ、お前」

 マントの男は口を開くと床に落ちた片手剣をさっと拾い上げた。軽く振り回したのち、また少女に向かってその剣を構える。

 切っ先はまっすぐ変わらず彼女の喉元に定まって次こそは絶対に仕留めてみせる! と言わんばかりに真っ直ぐその場所を捉えている。さらに鋭さが増してみえるのは、おそらくこちらの気のせいだろう。

 そのうえ男の纏う空気もどこか緊張感のあるものになっていて。表情は見えないが、全力の殺気のようなものをグレイは感じた。それはもうドミニクの時よりもさらに磨きがかかったものを。


 その殺気に気づいたかはわからないが、笑っていた彼女は笑うのをやめた。上げすぎて痛くなっただろうお腹をさすり、生理的に出てきた涙を手で拭いさる。

 しばらくは息を整えたりして興奮した身体を落ち着かせていた。

 そして―――




 ―――『アハハハッ、こんなにも笑ったのは久しぶり。こんなにも面白いものは久々に見たわ?』

 ようやく口を開いたのだった。

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