135話

 と呼ばれたその男は顔を隠していた腕をおろしたのちに身体に付く燃えカスを手でパッパッと払い落とした。それからグレイの方を見ると、これまでに彼が見たことのない表情を向けてきたのだ。

 ―――きれいさっぱり表情が消えた人形のような顔を。


 その顔を見ただけで背中の毛がゾワリと、拒否反応を起こしたように逆立つ。

 まさか仲間の一人が、仲間だった一人が―――がこのような事をするなんて思わず、混乱の極みに陥る。

 見知った相手がここにいることに怒りと疑問が混ざり混ざってたまらず感情をぶつけた。そうでなければ、ちゃんと目を合わせて話すことなんて今の自分にはできなかったと思うから。

 事実に直面できないほどグレイはまだ、精神が強くなかった。



 スティーブがあのような表情かおをするとは思わなかったのも、この混乱の一つともいえる。確かにこれまで彼と共に何年も過ごしてきたが、いつも見るのは笑顔か真剣な表情くらいだった。

 そのどれもが別の仲間たちも含めて一緒にいる時で。だからこそ何故だと責めよってでも問いかけたかった。

 納得できる答えがグレイには欲しかったのだ。





 ギリギリと歯が擦れる音をたてる。焦燥感ばかりが気持ちを追いたてて、身体が少しも追い付いていない。焦るなかでもいろいろと混乱しているのが自分でもわかった。

 怪我をしている自身が恨めしく、悔しく感じる。全力を出せれる状況ならこの裏切り者をぶっ飛ばせたのにと歯痒い気持ちでいっぱいだ。


 すると男―――スティーブがようやく口を開いた。蔑みもなく見下す様子もなく、言い淀むことなく次の言葉を言い捨てたのである。


「………ここにいるのは俺の仕事をきちんと終わらせるため。その為だけにお前たちに近づき共に過ごした。だから俺は、お前のことも仲間などとは少しも思っていない。あぁ、利用価値は存分にあったがな」

 と。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る