124話

「にゃ!? 一体どこから………っ!!」

 グレイが嫌そうに耳を抑えながらも聞こえてきた方に顔を向けた。一緒にいるレイラもその方向に目を向ける。


 見えるのは―――後ろにあるホールのどこかの窓。一箇所だけガラスの窓が割れて中の白いカーテンが外に向かってはためいているのが見えた。

 どうやら落ちてきたガラスの欠片はそこの窓のものらしい。


「あれ、割れてる……んですよね?」

 ポロリと疑問が口に出る。その答えに、

「当たり前にゃ。さっきの欠片は、そこのもののようだにゃね」

 まだ眉を潜めているグレイが返した。

 小さく聞こえてくる音はまだ、一度も途切れることなく続いている。なぜ敷地内のしかも部屋の中で打ち合っているのかはわからないが―――なんとなくレイラには嫌な予感がそこにあるような気がしてならなかった。



 そんな不安そうな表情になっているのが、どうやら相手にもわかったらしい。

「………どうしましたかにゃ? なにか不安なことでもあるのかにゃ」

 グレイが首を傾げて聞いてきた。レイラはギュッと手首を握りながら、

「………何がとは言えないんですけど、さっきから嫌な予感がしていて………でもなんでなのかわからないんです。だけど、そういうこともあって不安になってしまってて」

 とおずおずと答える。

 そんなレイラの答えに、

「嫌な予感、にゃ?」

 グレイが聞き返した。レイラは無言でコクンと頭を縦に振る。不安を紛らわすため、さらにギュッと手首を握りしめながら。


 ふむとグレイは考え込み、少ししてから、

「……気になるのにゃら、見に行きますかにゃ。その予感が何かわかれば、おのずと不安も消えると思うのにゃ」

 と提案を出した。










 ゆっくりと、だが少し足を早めながら二人は着実に3階への階段を登っていく。目指すはこの傭兵組織ギルド支部のマスター・ドミニクの部屋。


 グレイが言うには、どうやらあの窓のある部屋はドミニクのいる場所ではないかとのことだった。ならば今その部屋で、何か起きているのかもわかるに違いない―――そう二人で話し合い結論をだして現在に至っている。

 二人の目的は二つ。音の正体とレイラの予感が当たっているかどうかの有無である。




 階段を登りきりようやくドミニクの部屋の前まで来た。

 近くに来れば来るほど聞こえてくる音は少しずつ大きくなっていて。ついには金属同士がぶつかる音に加え、なにかを話してるらしい声も聞こえてきた。

 その声が聞き覚えのある声な気がしてレイラはまさかと思いつつ、部屋の入口に近づいていく。

 入口に近づけば近づくほどグレイの表情もだんだんと険しくなっていってるようだ。何かを察知したのだろうか、ドミニクの部屋の前に来たとときにはすでに戦闘に入る顔になっていたから。




 戦闘音らしきものはなかから聞こえてくる。それを聞きながらどちらからともなく顔を見合わせて頷き―――扉に手をかけて開いた。

 そして見えてきた光景に、愕然と驚愕の表情を見せた。






 ―――驚くのも無理はないといえよう。

 ソファやテーブルや椅子がすでにバキバキに割れたり壊れたりしており、磨かれた石床に紙がバラバラに散乱し、壁に床に大小さまざまな傷が大きく残り、見えた窓はガラスが割れて外が見えているのだから。

 そしてそんな状態の部屋のなかで―――拳に武器となる篭手ナックルをつけたドミニクが、全身に黒い装いを纏って剣で攻撃する男と激しく闘っていた。

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