125話


 相手が持っているのは狭い場所でも自由自在に動かせるちょっと小さめの片手剣。剣幅は対して大きくなく、だいたい5セメトルくらいだろうか。長さも室内や狭い場所などを考慮した約1メルトルほどの左右どちらにものあるものだ。

 それをまるで身体の一部かのように操り、目に見えぬ速さで相手は攻撃を幾度となく繰り返していた。上から下から右から左から、そして斜め上から斜め下から多才に多用に攻めつつ、まるで相手の次の行動すらも抑え込む勢いで繰り返し続けていく。

 そんな高圧的な攻撃に対するドミニクはというと、篭手ナックルの甲から手首にかけてついている硬い部分で受け流していた。上からきた攻撃は下に、下からきた攻撃は斜め上に、左右にきた攻撃は反対に反らし斜め上から来たものは斜め下へと流していく。その凪のような防御は舞台の上で力強く、だがしなやかに舞い踊る演武のそれに見えた。



「……すご、い………―――」

 つい見惚れてしまうほどの攻防に、息をするのも忘れたかのようにレイラは目を離せない。今のこの状況がどんななのかを少しの間だけ忘れてしまうほど、それはとても見事なものだったから。




 だが。その攻防も徐々に平行だった均衡を少しずつ崩し始めていく。相手の連続的な攻撃を捌くのが老齢したドミニクには困難になってきたからである。

 見れば少しずつだが身体の所々に小さな傷が一つ二つと数をふやしてきていた。なかにはその傷が大きくなり、少しだけ血が滲み始めている所もある。

 同時にドミニクの顔もどんどんと険しく、そして苦しそうな表情となっていった。受け流すその防御も少しずつ、その形を崩し始めるほどにキツくなっていたのだ。


 そしてついに―――相手の放つ痛恨の一撃をドミニクはまともに喰らって壁の方へと勢いよく吹き飛んだ。背中からぶつかり、あまりの痛みに動かなくなってしまったのである。





「っ代表マスター! よくも……っ許さないのにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 声をあげてグレイが飛び出し、勢いのまま刀を閃かせて相手の背後から襲いかかった。



 その刃は急所となる首を確かに捕らえていた。

 相手はわかっていたかのように身体を後ろに捻り、その勢いで片手剣で首に迫る刀を防いだ。そして虫を振り払うかのようにグレイの身体ごと部屋の端まで吹っ飛ばした。

 その力に抗えず吹っ飛び、ドミニクと同じく壁に背中からぶつかった。

「っぐ……!!」

 グレイの攻撃をいとも容易く防いだ相手は一瞥いちべつしたのち、動かないドミニクへと歩き始めた。

 ―――それは瞬きできるほどの、わずか一秒間の出来事であった。








「……こわ、い……………――――」

 あまりにも理不尽で圧倒的なそれに、レイラはがくがくと震える身体を抑えるのに精一杯で。無意識にその言葉が口に出ていた。



 ―――だから気づかなかったのだ。その小さな呟きを聞いた男が突如、歩みを止めてくるりと方向転換をしたことに。

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