123話

 ちょうど頭上からその割れたような音が聞こえた気がして、ふと上をみた。

 ―――そう。なんの気もなしに『見たい』という好奇心に駆られてレイラは見上げたのだ。


 それとほぼ同時だった、砕けたガラスがレイラの上に降ってきたのは。






 キラキラと光に当たって輝きながら、大小さまざまなガラスの破片それらが落ちてくる。

 そのさまはまるで太陽の光が小さな欠片となって地上に降ってくるような―――幻想的で、それでいてとてもキレイな光景に見えて。ほんの少しだけ見てよかったなと思えるようなものだった。



 しかし落ちてくるその瞬間というものは、自分でも驚くほど長く感じるらしい。

 まるで散った花びらのようにゆっくりガラスの欠片が落ちてくるのを、彼女は見開いた目で見ていた。

 それこそ、

「っおい、そこで何やってるのにゃ!!」

 とグレイが慌ててこちらに来るまで、彼女はその場で立ち止まって見ていたのだった。






             *  *  *






 こちらに来たグレイがレイラを守るように前に立ち、落ちてくる欠片に向かって手をかざす。それから一言、

「『消える』のにゃっ!!」

と紡げば―――欠片は一度炎に覆われてから蝋燭の火のように、一瞬にして消えてなくなった。


 それを見届けると、グレイは一度だけ息を吐き出して。それからキッとレイラを睨みつけ、

「……もう一度聞くにゃ。お前は一体、ここで何をやってるにゃ? ガラスが落ちてくると言うのに何をぼぉっとしていたのにゃ!?」

 と一気にまくし立てた。

 それこそ思わず後退るようなその剣幕に、レイラも少しばかりタジタジになる。

「ご、ごめんなさい………」

 謝るレイラ。まさか久しぶりに会う彼との最初の会話がなるとは思わず、少しだけ恥ずかしい。もっと普通に話をしたかったのにと思いながら、けれど後悔の気持ちを持って頭を下げた。

 謝罪を聞いたグレイはまたため息をつくと、

「……許すにゃ。まったく、次は気をつけるにゃよ?」

 とヤレヤレといった表情で返したのだった。


   






「……それで? お前はここで何をしているにゃ? まだ傷を癒やしている最中だと聞いているのですにゃが」

 建物の影に入ってから数分、口火を切ったのはグレイの方で。彼はわずかに目をそららしながらもレイラに対して質問をしたのだ。

 それに対し、彼女は少しの間思案したのち、

「……動けるようになったので、散歩をしてたんです。身体を動かしたかったし、いつまでも部屋にいるのも退屈だったので」

 と答えを返した。まっすぐグレイに目を向けてはっきりと声を出して。

「そ、そうですかにゃ………」

 だから今度はグレイのほうがタジタジになった。



 以前にがあってからグレイはレイラに対して、少しの罪悪感があった。

 あのときは気が動転していて初対面で話すようなことではなかったことを話してしまうし、その後だってかなり彼女に対して言い方のキツイ言葉を使ったと今なら思う。だからそのことについて多少なりとも後悔していたのだ。

 謝らなければと、誠心誠意謝罪しなければと思っていたのだ。

 故に今、そのことについて話をしようと思っていた。今は最適な雰囲気だし、ここで会うとは思わず予想外だったが、いずれは話をしにレイラが滞在する部屋にも行こうとも思っていた。

 その予定が少しばかり早くなっただけのこと。そうグレイは結論づけて、また口を開いた。






 ―――だがその前に。

 カッ! と突然二人の頭上で光が放出された。それから、


 ―――カン!・・・・・キィン!・・・・・ガァン!・・・・・―――


 と金属同士のぶつかる音がかすかに聞こえてきたのである。

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