101話

 現れたのは四人の異なる精霊たち。それぞれが動かす、それぞれの万物を司るかのような装いで二人の目の前に現れた。


 ある精霊は新緑のような緑色と鮮やかな花の色に染まった小さなワンピースを。その手にはたくさんの彩りよい花と大きな団扇にも似た葉を持っている。

 纏うは風、司るは大気の循環。その名も精霊・シルフである。


 ある精霊は燃えるような茜色と輝くような黄金こがね色に染まった、蜥蜴とかげのようにキラキラと輝きつつも硬そうな鱗を。背中とその回りには、ふよふよと漂う七色に揺らめいた小さな炎がいくつも浮かんでいる。

 纏うは火、司るは熱。その名も精霊・サラマンダーである。


 またある精霊は深海のような深い青色とキラキラと泡のような真珠色の小さなドレスを。その髪には色鮮やかな珊瑚の髪飾りや小さな真珠があしらわれている。ドレスの裾から見えるのは珊瑚色に染まった鱗の足ひれだ。

 纏うは水、司るは浄化。その名も精霊・ウィンディーネである。


 そしてまたある精霊は、鮮やかな七色に染まったシャツと裾の短いズボンを。たくさんのアンクレットやブレスレット、そしてネックレスをつけて、その一つ一つに小さくではあるがそれでもキラキラと輝く宝石がはめられている。宝石を通しているチェーンも、宝石のようにキラキラとしている。

 纏うは土、司るは命の循環。その名も精霊・ノームである。



 その小さくも大きく圧倒的な気配にしばらく呆気にとられていたディックだったが。はっと我に返ると、腕のなかにいたレイラの身体をより一層抱き締めた。精霊たちに彼女を奪われるのではないかと心配したのだ。



 幾ばくかの間、精霊たちは二人の周りをふわふわと羽毛のように軽やかに漂っていた。

 そのときの彼(彼女)らは特になにかをするわけでもなく、ただ呼ばれたから来た―――というような感じで。




 幼馴染みは精霊を呼び出す能力を持っている。今までも何度か使っているところをディックも見ているし、小さい頃からやっているのを知っていた。今まであった発作のような『それ』の時も微かにだが精霊の力を感じたからだ。


 エルフ族は数ある種族のなかでも精霊たちの姿を見ることができる唯一の種族である。精霊の力を感じることもできるし、さらには『精霊の愛し子』のように精霊から祝福を受けるエルフもいるという。

 だからディックも精霊を見ることができるし、その力も感じることができるのだ。


 今はまだ特に何もしない精霊たちにディックは少しだけ安堵の息をはいた。このまま何もせず、に戻ってくれればそれでいいのだから。







 だがそれもここまでだったようで。

 身じろぎを少し起こしたあと、レイラがようやく目を覚ました。

 けれど次の瞬間。

「っイヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 つんざくような悲鳴とともに泣き叫び始めたのだ。見開いた瞳からポロポロと涙を流し、両手で顔を覆いながら。









 とたんに・・・精霊たちの暴走が始まった。

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