102話

 動き出す精霊たち。

 まずはシルフがその手に持っている団扇のような葉を大きく持ち上げ、その場で扇いだ。方向を変えてその場所を往復しながら、ところ構わず次々と葉を扇いでいく。

 そうすれば現れた小さな風もどんどんと大きくなり、やがて小規模であるが威力の大きい荒れた竜巻が二人の周りを全て満たした。

 それが合図かのように他の精霊たちはくるりくるりと二人の周りを一周し、それぞれ違う方面へと向かって出ていく。



 深い青色のドレスに身を包んだウィンディーネは扉のある方角へ。



 蜥蜴の鱗を持ったサラマンダーは夕陽の見える方角へ。



 そして宝石を身につけたノームはその反対側の方角へ。



 すぐにでも追いかけたかったが―――レイラがまだ泣き叫んでいるために動けない。それに竜巻の中心にいるので、下手に動けば大怪我は避けられないだろうことはすぐに察せられた。


 躊躇しているその間にも竜巻となった風は威力を落とすことなく、部屋のなかで強く風立っている。

 すでに部屋のベッドのシーツはズタズタに引き裂かれ、布団からは中に詰まっていた羽が巻き込まれている始末。外から窓を覆っているカーテンもビリビリと裂き跡が出始めている様子だ。

 さらには竜巻の威力が大きくなるあまり、窓にさえも小さなヒビが入り始めていて。木材で組まれた床はもう、ギシギシと軋む音を大きく響かせ始めている。

 ・・・止めるにせよどちらにせよ、まずは目の前のことから対処をしなければどうしようもないらしい。





「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 レイラはいまだに泣き叫び続けている。涙を拭こうともせず、心のありったけを慟哭のように吐き出しながら。

 その声がなんだか助けを求めているようにも聞こえてぎゅっと締め付けられた。


 村を消した相手への憎しみはディックにももちろんある。思い出すたびに何度も腸が煮えくり返るし、同じくらいに巻き込んでしまったことへの後悔でいっぱいだから。


 それでもこうやって心を落ち着けることができているのは、この幼馴染が何よりも心配だからである。





 

(……よし)

 気合いを入れ直したディックは、彼女の身体を胴体にぴったり寄せて支える。全身で彼女を包み込み、人肌で落ち着かせるために。

 そして己の想いを言葉に変えながら、

「俺がずっと側にいる。約束するから……だから、な? レイラ。大丈夫だ、大丈夫だから」

 歌うように紡ぐのだった。

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