100話
女性医師の言葉にディックは少しの間思考を巡らせる。そして、
「昔からですかね、こうやって意識を飛ばすくらいのことは。いつも俺が近くにいるときにこういう状態になるみたいで………」
ポツポツと、今までのことを喋り始めた。女性医師はその内容を聞きながら次々と診断書に書き留め、内容を把握し、纏めていく。サラサラと流れるように書かれる筆跡の音が、部屋のなかで小さく響いた。
聞いたことを書き留めつつも、女性医師は気になったことをディックに問う。彼は少し考えてから問いに答えた。答えられないものは濁し、言葉をかえて答えを返す。それを女性は頷きながら診断書に書いていく。
質問が出てくればその少しあとに答えが返る。そんな繰り返しが数分と続いた。
―――そんな時だ。
やり取りのまっただ中のことであった。ディックの腕のなかにいたレイラに・・・意識がないはずの彼女に微かな動きがあったのは。
最初に気づいたのは浅い眠りにいたスカイ。いきなりパチッと目を開いたかと思うと、ディックの上の服の裾をクイクイと引っ張り始めたのだ。
前足を使って小さく出した爪を器用に縫い目に引っ掻けながら。
突然の行動に首を傾げたディックだったが―――次の瞬間。
「っ先生と一緒に外に出てろ! 出たら扉を閉めて絶対に開けるんじゃねえぞ!」
何かに気づいたのか、レイラをギュッと抱き締め、いきなり大声を出した。
「え、なに? どうし―――」
スカイは頷き、状況に混乱する女性医師の服に噛みついて外へ外へと引っ張り始めた。
抗議の声を上げようとするも、
「あとで説明はします! 今はここから避難してください!」
という焦りの入った言葉になにかを悟った女性医師は頷く。そして外へと引っ張られていった。
やがて。
一人と一匹が出たほぼ同時期に『それ』はすぐに起こった。
部屋のなかの空気が張り詰めたものに変わったかと思うと―――現れたのだ。滅多に人前に出ないというあの精霊たちが。
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