95話

 思えば今日、いつも通りのんびりとした一日になるはずだった。だと言うのになぜか漠然とした嫌な予感は心のうちにあったのだ。

 そんなことはない、単なる気のせいだと思ってレイラを送り出していたが・・・その小さな予感が違わずに当たっていたのだとでもいうのだろうか。



(………っ)

 激しく後悔した。気のせいだと頭の隅に追いやらず、彼女と一緒にいけば良かったのだと。

 たまには一緒に散歩でも・・・という名義をかかげつつ、その予感を消すためについて行けばよかったのだと。

 どうしたの? と聞かれるだろうが、そんなものは手伝いたいといえば解決する小さな問題だ。

 幼馴染みである彼女を守ること、それがディックの絶対的に最優先事項であるはずなのにそれを怠ったのは紛れもなく自分自身。いつもの日課を最優先とした、ディックである。



 腕の中にいるレイラをギュッと慈しむように抱き締める。心に巣食っていく後悔や憤怒といった―――負の感情を押さえるため。あるいは彼女の無事を何度でも確認するために。

 そしてこれ以上、大切な人が消えないようにするために。ディックはこれからの心構えを悔い改めたのだった。









 ディックが悶々と深く考え事をしている間にもドミニクを含んだ三人の会話は続いていた。襲撃の詳細は勿論のこと、これからどうするのかなどの話も幾つか案が出始めている。どうやら彼らは攻撃を迎え撃つための対策を考えているようだった。

 それがとても有り難い半面、このままお世話になりっぱなしでいいのか・・・と不安も見え隠れしている。


 というのも今回の話で敵の狙いはほぼ確実にレイラであることが確認できた。

 追撃の手を緩めないのは用心に用心を濾しているからかそれともなにか別の考えがあるのか。それが何かなんてことは、その人間でないのだからディックもわからないが。

 ただ、そんな状態でここにずっといてもいいのかどうか。以前はそうでもなかったが今の答えはただ一つ―――なしである。




 ここにいてはいずれこれからのことで巻き込んでしまうことになるだろう。

 どんなことになるのかは知らないし分かるはずもない。けれど、もしかすればあの事件以上に最悪なものになるかもしれない。そんな柄にもない不安が、ディックの脳裏にこびりつくようにして付き纏っていた。


 ドミニクやある程度好戦的な者たちは喜んで巻き込まれようとするのだろう。あえて戦いは怖いがあらましは気になるという物好きな奴も多少はいるかもしれない。


 だがそれはでしかありえないことをディックは知っている。

 その他多くは非現実や非日常を望まない者たちだ。平穏を望む者たちだ。そういった者たちは協力などしない、自分達には一切関係ないと声高々に言うだろう。

 むしろこれ以上厄介事に巻き込んでくれるなと追い出されるに違いないのだ、自らの平穏を脅かされないように。

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