96話

 これ以上周りを巻き込みたくないのは二人こちらとしても同じだ。であるならば。

(………町を出る準備は、もうやっておくべきだよな)


 ―――出る、その決意を固める時が来たということになる。

 もちろん今すぐにとはいかない。彼女の状態も良くない上に、恐らく今日の夜あたりに彼女はやってしまうのだろう。いつも起こす、を。

 そんな訳でしばらくは動くに動けないに違いない。全快に治すためには、絶対安静にしていなければならないのだから。



「……ここではなんじゃ、なかに入って話し合おうではないか。このままではあちらのお二人も可愛そうじゃからな」

 話を終えたらしい、ドミニクの閉めの言葉が聞こえる。ディックはもう一度しっかりと抱き上げるとレイラの額に口づけを落とす。そしてスカイを起こしてからホールの玄関に向かって歩き始めたのだった。





          *  *  *





 ドミニクやグレイたちとはすぐに中で別れた。

 ディックはもう一度感謝を述べ頭を下げると、ドミニクに呼ばれた案内人に連れられて治療部屋に行った。


 玄関から続く階段を目指し無言で歩いていく。途中で何人かの者たちとすれ違うが、みなギョッとこちらをみて端に寄り道をあけた。そこを無言で通れば遠巻きにこちらを見るいぶかしげな視線を受け止める。

 どうやらついさっき門の前で起こったことは噂として浸透しているらしい。噂話が流れるのは速いというが―――どこまでそれは伝わり、どのくらい尾ひれがついているのやら。

(……ま、別にいいけどな)

 ディックとしてはこの状況はむしろ大歓迎だったから。


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