75話
「………ん? なんだ、俺たちに話しかけているのか?」
声をかけられた二人は怪訝そうにこちらを見る。
その目はこちらを疑うような色を写していて。どうやら二人組に警戒されているようだった。
笑みを浮かべて無視しつつ、グレイはにこやかに話を続ける。
「そうですにゃ。先ほど少し聞こえたのにゃ、ここに隣国の兵士が来ていると」
「………あぁ、確かにその話はした覚えがある。しかしそれがどうした? お前に関係あるのか、その話は」
口を開いたのは両手に沢山の荷物をもった男性の方だ。もう一人はという、背中に背負った大きなバッグを持ち直していた。
「そうなのにゃ。なので、どの辺りで彼らを見かけたのか私は教えて欲しいのですにゃ」
「……理由は?」
その質問に、そのもう一人が尋ねる。
「友人が兵士として働いているのですにゃ。もしかすれば、ここで会えるかもしれないと思ったのですにゃ」
「友人だぁ? どこの所属かは知らねぇのかよ?」
「知らないのにゃ。長年こちらに定住していたせいで、なかなか連絡を取れずにいたのですにゃ」
「へぇ……なら、その友人が兵士として働いているのはなんで知ってる。ほんとは嘘、なんてオチじゃあねぇよな?」
大きなバッグを持った男性の方が、ニヤリと意地悪く笑った。その目は一つも笑ってはいない。明らかにこちらを探っていると見えた。
されどグレイ、
「まさか。友人とは夢を語りあうほど仲のよかったというだけですにゃ。よく言っていたのにゃ、王国を守る兵士になりたいと」
男性のそんな質問でさえもはね除ける、人のいい笑みで答える。
「なるほどな」
「……しかし別れてからもう数年以上もたっているのですにゃ。今あの友人はどうしているのかは分からないのにゃ。もし夢を叶えているのなら、ここで会うかもしれない……と、そう思ったのですにゃ」
最初こそ、疑いの目を向けていた二人。だが、
「……そんな理由なら仕方ねぇな。教えてやるぜ、隣国の兵士がいるかもしれねぇ場所をよぉ」
数分後ため息をつき、最初にこちらの質問に答えてくれた男性が口を開いた。
グレイの笑みは変わらず絶えない。しかし少しだけだが、嬉しそうである。それは情報を得ることができた喜びかもしくは計算通りに進んだことによる歓喜か。いずれにせよその心意は彼一人しか知るよしもない。
「それはそれは、ありがたいですにゃ」
「おっと渡すのは報酬次第だぜ? この情報を教えんのはよ」
「勿論ですにゃ。といってもそれに見合うかはわからないのですにゃがね」
グレイはズボンのポケットから袋を取り出すと、そこから硬貨二枚を彼に渡した。受け取った男性はニヤリとまた笑うと、
「どうも。あぁ、あとここいらで美味しい店を知っていたら教えてくれないか? それでこの商談はチャラにしてやってもいい」
と、さらに追加の注文をだしたのだった。
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